【座談会】2025年のFabScene編集部を振り返る

2025年の12月某日、FabScene編集長の越智、編集の淺野、工作ライターの小林、むらさきの4人が集合。都内某所で今年の出来事を振り返りながら、来年への展望を焼鳥を肴に語り合いました。

今年最後の記事として、FabScene忘年会の様子をお届けします。年末のスキマ時間にご覧ください。記事の最後には読者投稿の最優秀作品の発表もあります。

一つの投稿が予想外の反響——FabSceneはこうして始まった

越智 今年は自分たちの話から始めると、3月にfabcross※が終わって、そこからFabSceneを立ち上げたのが大きかった。fabcrossが終わりますって聞いたのが本当にクローズ2週間前とかで。それで「終わります」ってnoteに出したら、思ってもいないぐらいの反響をいただいて。

※この辺りの経緯は長くなるので、こちらをご覧ください。

淺野 あのときはびっくりしましたね。

越智 その反響があったから本気でやってみようかなと思って、何人かと壁打ちして方向性を固めたんだよね。淺野くんに話をしたら「やります!」みたいな感じで。

淺野 ほぼ即答でしたね。

越智 そこからオープンして半年が経ったわけだけど、fabcrossの1年目と比較すると、FabSceneの1年目は非常に恵まれてるんだよね。

まず1年目からスポンサーが2社もつくことなんてあり得ないし、いろんな企業から取材のオファーもいただけるし。取材記事もSNS経由でそれなりに読まれて、手応えはあったね。

何よりも、周りから声をかけてもらえるのはありがたい。立ち上げてよかったなって思うよね。今は僕が動けば動くほどコンテンツが増やせる体制なので、SNSとかで「これ面白そう」と思ったら、一次情報に当たったりして、30分でニュースを出すみたいなこともできる。以前はかなり分業制だったし、自分がオーナーだったわけでもないしね。今はそれがちょっと楽しい。

「3万円で買える」と言うと驚かれる——3Dプリンターは炊飯器

越智 今年を振り返ると、やっぱりBambu Labの存在感がすごかったよね。去年も話題にはなってたけど、今年は確固たる地位を築いた感じがする。

淺野 僕もBambu Lab A1 Miniを買ったんですけど、マルチカラーのハードルがすごく下がりましたよね。AMS(自動マテリアル供給システム)を見せると「こんなことできるの」ってわかりやすい反応があって。

3Dプリンターってどんなものがあるんですかって聞かれたときに、「いやもう最近は3万円で買えるよ」って言うと結構驚かれるんですよ。

僕はよく炊飯器に例えてて。炊飯器って安いので1万円とかでも買えるじゃないですか。でも世の中には3万円とか5万円のものもあって、ご飯を炊くだけだったら安いのでもできるけど、もうちょっと機能が欲しいならいいやつを、みたいな。3Dプリンターもそういう感じになってきた。

むらさき 調理家電に例えるといいですね。価格帯的にもそうだし。

淺野 今年、千葉工大で1年生の夏休みの授業を見学させてもらったんですけど、初めて3Dプリンターを触る学生たちが1日で自分の好きなものを作れるようになってて。スライサーでデータを作ってSDカードを差し込んで出力するだけ。これなら授業でも十分使えるなって。

むらさき 私が一番初めに触ったのはPrintbot jr.で、パーツをレーザーカッターで切って組み立てるキットだったんですけど、まず出力にたどり着くのがめちゃくちゃ大変で。

そこから考えると、かつて3Dプリンターブームの頃に言われていた「一家に1台」が近づいてる感じがしますね。

ESP32の記事で気づいた「読者が本当に求めていたもの」

越智 今年一番の発見は、ESP32関連の記事がすごく読まれたこと。Espressifの歴史をまとめた記事を出したら、予想以上に反響があって。

淺野 あれ、読んで普通に面白かったです。ESP32の歴史って何となくいろいろ聞いてはいるけど、まとめるとどういうことなんだっけっていうのを知らなかったりするんで。

越智 ESP32っていう文脈に読者のニーズがあるんだなってすごくわかった。だからESP32関連の記事はビギナーから上級者まで、ホビーからインダストリアルまでカバーしていきたい。

淺野 信頼性のある情報がちゃんとまとまってるサイトって嬉しいですよね。

越智 今年読まれた記事でいうと、同人ハードウェア関連の記事も反響が大きかった。ビットトレードワンさんと家電のケンちゃんをやってる原田さんの対談とか、開発者さんへのインタビュー記事とか。

むらさき 個人で作って個人で売るっていうマーケットが、コロナ禍を経て復活して盛り上がってますよね。

越智 数年前と比較して、やりやすくなってる。

むらさき 私もキーボードを作って売ってるんですけど、数えてないけど多分200台を超えてるんじゃないかな。本業にするわけではないけど、欲しい人に届けるっていうのが継続してやりやすくなってる気がします。

小林 展示する機会とか、自分の作品を発表する機会もめちゃくちゃ増えましたよね。東京だけじゃなくていろんなところでイベントがありますし。

淺野 3Dプリンター専門のイベント「Japan RepRap Festival」を取材しましたが、中身は結構マニアックではあるけど盛り上がってました。

苦手な作業はAIに、好きな作業は自分で——新しい「チームの組み方」

むらさき 私はプログラミングがあまり得意ではないんですけど、AIによってだいぶ助けられた感がありますね。

淺野 今年はAI系のやつがめちゃくちゃ進みましたよね。小さいマイコンボードでAIの画像認識ができるとか、実感を持ってわかるようになった。

越智 小林くんは最近ロボット作ってるよね。

小林 そうなんですよ。結構感動したくてやってるみたいなところがあって。ヒューマノイドロボットが流行ってるじゃないですか。それがどれだけすごいんだろうって思って、自分で作ってみたら、そのレベル感の差みたいなのがわかるようになった。

越智 作ってみて初めてわかることってあるよね。

小林 子供とかが見て「作りたい」ってなって、その子たちが大人になって作る。そうやって人の心を動かすみたいなところが、自分のモチベーションに近いですね。

むらさき 確かに、展示会に出る意味ってそこに繋がりますよね。来てくれた子供たちが遊んでくれたりするのを見ると。

小林 そうなんですよ。作って記事書いてるだけだと仕事になっちゃう。仕事なんだけど、それだけじゃないっていうか。

越智 AdobeがChatGPTと連携してるけど、あれがモデリング領域に染み出す可能性は全然あるよね。テキストで「バッテリー周りの熱対策を考慮して、内部を設計して」って言ったのを、正確にやってくれるようになったら、ゲームチェンジャーになるんじゃないかな。

むらさき ちょっとはできるようになってるんですけど、今はまだまだですね。

越智 でも1年ぐらいで劇的に変わるんじゃないかっていうスピード感はある。

小林 苦手なところはAIでできるから楽だけど、自分が得意なことはちゃんと手でやりたいんですよね。

むらさき AIとチームを組むと、人間とチームを組むときみたいに技術以外のところに気を遣わなくていいし、こっちの意見を尊重してくれる。擬似的なチームになってくれる感じで嬉しいかもしれない。

越智 どこを合理化してどこを楽しむかだよね。

「頑張りすぎない」が正解——細く長くものづくりを続けるために

むらさき 皆さん、自分のラボというかファブスペースってどれくらい開いてますか。

淺野 僕は引っ越しもあって3月に一旦閉じて、また再開しようと思いつつ忙しくて手をつけられてなくて。いつでもウェルカムじゃなくてもいいのかなって最近思ってます。

むらさき そういうのでいいと思います。月に数回とかにして、その日に来てくださいって言った方が来る方もやりやすいし。

小林 空間を開くってすごい体力いるじゃないですか。誰がいつ来るんだろうって待ってるの大変だし。

むらさき 私は子供が小さいので、ものづくりにかける時間はどうしても減ってはいるんですけど、細々とやってます。

越智 「細々と」ってネガティブな響きがあるけど、いろんなことをやりつつ無理なくものづくりも続けられてるっていうのは大事だよね。

むらさき 私はもう初めから細々を目指してるので。細く長くっていうことですよね。頑張ろうとすると疲れちゃうから。

むらさき 頭を使うところはAIに任せて、実際に手を動かす部分をやりたいっていう気持ちがあります。ネジを締めたりとか、単純作業をひたすらやりたいみたいな

越智 単純作業とはいえ幸せの時間ってのはそれぞれあるわけだから、そこは面白いね。

むらさき 単純作業って精神安定作用があると思うんですよ。物理的にちょっとでも体を動かしてると幸福度が上がる気がする。

越智 玉ねぎ刻むときとか、フードプロセッサーを使えばいいんだけど、合理的な切り方を覚えるとそれをやりたくなる。AIでいろいろ合理化が進むと、逆に人間としての活動の価値みたいなのは出てくるよね。取り戻したい、ここは守りたい、みたいな。昔のキャンプとかもそうでしょ。家でやったらいいじゃんってことをあえて外でやる。

『アイアンマン』の第1作で、何もない環境で自分でスーツを作って脱出するっていうのがあったじゃないですか。あれってプリミティブなものづくりがかっこいいっていうのを証明してたと思うんですよ。AIの時代になっても、自分で図面引いて自分で作るっていう価値は損なわれないんじゃないかな。

来年はポッドキャストに挑戦——テキストと動画の「中間」を探る

越智 来年の話をすると、僕はポッドキャストをやりたいなと思ってて。

むらさき ポッドキャストが流行ってますよね。全体的な時代感としては動画に逆行してるのが面白い。

越智 メディアとしてYouTubeとかTikTokもやりたいんだけど、ちょっと飛躍しすぎるかなと思って。その中間をやりたい。動画メディアは今テキストでやってることと全然違う切り口や見せ方にしないと多分見られないので、やるときは新しいメンバーを入れなきゃいけない。その前に今のメンバーでできるポッドキャストを通じて足場を作りたい。

むらさき ショート動画みるよりポッドキャストを聞くほうが私は多いし、作業しながら聞けるから嬉しいですね。

越智 ショート動画ってテンション勝負じゃないですか。最初の1秒で惹きつけて30秒見てもらうみたいな。僕がやりたいのとはちょっと違う。ポッドキャストはコアなファン向けで、何万人も聞かないけどコアな人が最後まで聞いてくれるっていう良さがある。

淺野 僕も昔ポッドキャストやってたんですけど、毎週聞いてくれる人がいるとテンション上がりますよね。

越智 取材した人にポッドキャスト用にちょっと喋ってもらって、記事には載せないアウトテイク的なものを出すのもいいかもしれない。マニアックなことをやるときの入り口として、まずはそこからかな。

むらさき ゲスト回がたまにあるといいですよね。ゲストを聞きたい人も来てくれるし。

越智 そうだね。今年もかなりハードだったけど、来年はもっと忙しくしたいね。

今年の読者投稿最優秀賞

忘年会と併せて、今年の読者投稿作品の最優秀作品を選定しました。編集部でディスカッションした結果、ほぼ満場一致で「工作記録帳」氏の「音を『見る』!」プロジェクトに決定しました。

受賞した工作記録帳氏には、FabSceneオリジナルTシャツ(ロゴデザインはヒップホップアーティストshing02氏)とMaker Chipを贈呈しました。

以下、工作記録帳氏からの受賞コメントです。

「FabScene編集部の皆様、この度の選出、本当にありがとうございます!

『音が広がる様子を目で見る』というアイデアを実現するための200個のセンサーを製作、そしてそれを体育館に並べるのは苦労しましたが、実験で狙い通り音がパパパッと伝わる様子を視認できた瞬間は忘れられません。

このプロジェクトを通して科学の楽しさを感じてもらえたら幸いです。今後も楽しい作品を生み出していきます!」

FabSceneでは来年も読者投稿を受け付けています。ぜひご応募ください!

それでは皆様、よいお年をお迎えください。

FabScene編集部

FabScene編集部