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「俺の嫁」から「みんなのパートナーへ」反骨精神から生み出したGateboxと次世代機への挑戦

「初音ミクと暮らしたい」という途方もない夢を掲げて、キャラクター召喚装置「Gatebox」を生み出した武地実氏。2024年8月にLINEヤフーグループから独立し、2.3億円の資金調達を実施。今、彼は「第3創業期」と位置づける新たな挑戦に乗り出している。

メイカーズムーブメントの頃から日本のハードウェアスタートアップを取材してきた筆者が、武地氏に約10年間の軌跡と次世代機開発への思いを聞いた。

生成AIの台頭やバーチャルキャラクターの普及で追い風が吹く中、武地氏は「ビジネスを忘れる」必要があると語る。その真意と、新たな仲間に込めた思いとは。飾らない言葉で語られた、日本のハードウェアスタートアップの現実がここにある。

3号機は「みんなのプラットフォーム」へ

——今日はGateboxの次世代モデル開発に向けて、開発者の採用も進めているとのことでインタビューの時間を頂きました。まず、新しいハードウェア開発について教えてください。今回、ハードウェアエンジニアを採用される背景も含めて。

武地氏:今回作りたいのはGateboxの3号機になります。現在世に出ている2号機を出したのが2019年なので、もう6年以上経っています。在庫もほとんど無い状況なので、新しいものを作るしかないという状況になっています。

ただ、現在社内にハードウェアエンジニアがいない状態なんです。基本的にはソフトウェアのエンジニアが中心で動いていたので、次世代モデルのハードウェア開発者1人目として募集したいという現状です。

Gatebox創業者で代表取締役の武地実氏とキャラクター召喚装置Gatebox

——3号機のコンセプトは、これまでとどう変わるのでしょうか。

武地氏:やはり今までのGateboxの「キャラクターと暮らす世界を作る」というビジョンを体現するような、さらに進化した新しい体験をお届けしたいと思っています。

ただ、大きく変わるのは「誰のためのデバイスか」という点です。10年前は「キャラクターと暮らす」なんてやっているのは僕らぐらいしかなかったんですけど、今は個人でも自由に作れるような世界になってきました。生成AIが広がったことで、キャラクター制作が本当にやりやすい環境になってきたんです。

なので、いろいろな開発をしている方々にとって「俺が作ったこの子を出すための装置」として、使いやすいデバイスにしたいと思っています。技術面というよりは、いろんな人が参画しやすいプラットフォーム的なデバイスにしたいというのが構想としてありますね。

Gatebox2号機は個人向けモデルが完売現在は法人向けのサービスを展開しつつ3号機の開発に向けて準備を進めている写真提供Gatebox

——スペック的にはどのような進化を考えていますか。

武地氏:今の2号機はAndroid OSを乗せて、これ自体がスタンドアローンで動くデバイスとして開発しています。今の状況を見ると、マシンスペックはかなり向上しないといけないケースもあるなと思っています。

現在の構想としては、デバイス自体は映像表現に注力して、ユーザーさんのPCをつなげることもできる形、つまり外部ディスプレイとしても使えるような形を考えています。最近ではハイスペックなゲーミングPCを持っている人も増えてきたので、「俺が育てた最強のAI」を盛り込んだキャラクターを使えるようにしたいですね。

——最近、ChatGPT-5が寄り添った答えを出してくれないと不評だったことで、一つ前のモデルに戻したいというユーザーの声が話題になりましたよね。技術的な進化だけでなく、人間に寄り添うAIへの需要が顕在化したように思えます。Gateboxは「初音ミクと暮らしたい」という思いから生まれ、まさにデジタルとの寄り添いの先駆者だったわけですが、この流れをどう見ていますか。

武地氏:寄り添いを求めている人は、ChatGPTが出る前からずっと一定数いるんですよ。AIとコミュニケーションできるアプリは以前からいくつかあって、一定数のユーザーが使っているのを見ていたので、需要がより広い層に顕在化したなと個人的には思っています。

ChatGPTだからこそここまで話題になったのかなと思いますし、何より社会的な議論が生まれるきっかけになったので、このニーズに答えるものが必要なんだなと再確認できました。

——Gateboxは期せずして、時代を先取りしていたということでしょうか。

武地氏:単なるデジタルデータじゃなくて、自分の生活や人生に寄り添ってくれるような存在を作っていたのかもしれません。ただ、あまりうまく言語化できていないのですが、寄り添いを求めている人って結構多いんですよね。それがChatGPTの件でより顕在化したなと思います。

LINEヤフーグループからの独立、そして「ビジネスを忘れる」決意

——Gateboxを2016年に発表した後、翌2017年にLINEグループ(現在のLINEヤフーグループ、以下LINEヤフー)傘下に入った後に、2024年8月に独立しました。独立の経緯について聞かせてください。

武地氏:グループから独立したのはシンプルな理由です。僕らはLINEヤフーグループに入る際、LINEのAIを搭載したスマートスピーカーの一種みたいな位置付けで、LINEのAI関連事業に加わりました。さまざまなスマートスピーカーがある中で、僕らは「かわいいスマートスピーカーじゃなくて、オタク向けのやばいやつ」みたいな位置付けでした。

LINEの技術を使ったスマートデバイスとして一緒にやっていこうということで、僕らも当時は自社でAIをやっていくリソースが全然なかったので、そこを一緒にできるのであれば、とてもメリットがあるなと思ってご一緒させてもらったんです。

ところが、LINEがそのスマートスピーカー事業から撤退したという経緯があり、僕らもそれに合わせて居場所がなくなったという状況でした。「どうしよう、どうしよう」となっていたときに、ちょうどChatGPTが出てきたんです。あれは本当にベストタイミングで出てきてくれました。ChatGPTに乗り換えることで、LINEヤフーグループから独立するという流れになりました。

——独立後、改めて資金調達もされました。投資家からの評価はいかがでしたか。

武地氏:ありがたいことに、生成AIが出てきてより僕らに追い風が来ているという評価をいただきました。自分自身もこの10年を経ていろんな経験を積んできたというのもあるので、ビジネス面でも大きな期待を持っていただけたんだろうと思っています。

——創業から10年以上経って、作りたいものと売りたいもののバランスはどう変化しましたか。

武地氏:当時と今ではだいぶ変わってきていますね。最初の頃は本当に「夢のある製品を作ろう」という考えでした。

最初のプロジェクトであるスマートフォンアクセサリー「AYATORI」が失敗したのは、夢が小さかったからだと思っているんです。スマホに挿す製品って、結局頑張れば誰でもできそうな商品なんですよね。

クラウドファンディングに出しても、作れそうなものって支援されないんですよ、当時の環境だと。逆に「すごくかっこいいロボット作ります」みたいなものが数億円も集めていました。ただ、そういうものの中には、結局作られずに終わるケースもあるんですけどね(笑)

武地氏がGatebox以前に開発したスマートフォンアクセサリーAYATORI画像出典元Indiegogo

つまり「作れるものじゃなくて、作れなさそうなもの」「これができたら最高にかっこいいじゃん」みたいなものに支援が集まって、量産できるという状況だったんです。だから、Gateboxについても、実現できる可能性はあえて考えないというスタンスでした。

——現在はどうですか。

武地氏:今はどちらかというとビジネスを考えがちになってしまっていて、それを跳ね返そうとしているんです。

Gateboxの初号機、2号機を世に出すことはできたんですけど、やはりまだまだニッチな商品であり、老若男女に支持されている商品ではないと思っています。これはビジネス面の課題が大きかったなという反省もあり、年を追うごとに私も少しずつビジネス目線で物事を考えるようになりました。

でも、0→1で作るときはこれが邪魔だと思っています。リミッターを解除するというか、僕がビジネスを忘れないといけないと思っています。初号機の時代に戻らないといけない。第3創業期という感じです。

「早くこんなところ出てやりたい」と思っていたDMM.make AKIBA時代

——GateboxはDMM.make AKIBA※にも創業期に入居していましたね。初日から入居されていた武地さんから見て、あの時代を振り返るとどうでしたか。

武地氏:僕らは初日に入居したんですけど、あの環境は本当に刺激的でしたね。ただ、僕の場合はちょっと他の人と考え方が違ったのかもしれません。僕のモチベーションは「早くこんなところ出てやりたい」と思っていました(笑)。

DMM.comが2014年から2023年まで運営していたハードウェア企業や個人開発者向けのコワーキングスペース。製品開発に必要な機材利用から、技術・ビジネス面の支援を提供していた。

——え、それは意外な…普通は切磋琢磨する仲間がいて嬉しいという話になりそうですが。

武地氏:スタートアップとしては大成功しないと意味ないと思っていましたし、明日には死ぬと思っていました。だから大成功するために、こんな環境から早く出られるぐらいの会社にしなければいけないと思っていたんです。

周りでキラキラしている人たちがいるのを見ると、すごくやる気が湧いてきました。「早くここを出てやる」という気持ちが沸々と湧いてくるので、それを全部ものづくりにぶち込めたんです。僕は周りがキラキラしていると、それを反骨精神というか、それを糧にものづくりができるタイプだったので、僕にとっては最高でしたね。

——入居している方との交流とかはされていたんですか。

武地氏:せっかくのオープンスペースなのに、僕は誰とも喋らずに、近寄ってくるなオーラ全開でやっていたんですよね(笑)。部屋にこもって作業していました。

——ああいった場所の価値って何だと思いますか。

武地氏:突き詰めると魅力的な卒業生が生まれているかどうかが全てだと思っています。僕らもDMMさんに対してできる恩返しというのは、誇れる卒業生になることしかないと思っていました。そういう意味では、その小さな一例にはなれたかもしれないですね。

採用の基準「明日にでも深圳行きます」という行動力

Gateboxのオフィスは創業から一貫して秋葉原にある
LINEヤフーグループ傘下に入る際も契約書にオフィスは秋葉原から出ないと明記したほどのこだわりがある

——最初のハードウェアエンジニアはどのように採用されたんですか。

武地氏:最初の試作機を作ったときのメンバーは、元々遊技機メーカーでメカ設計エンジニアをやっていた人なんです。面接では「アニメとかキャラクターも好きなんですよ」みたいな話をして、すごくシンパシーを感じました。

「いつから来れますか」と聞いたら「今勤めている会社がなくなるかもしれないので、明日から行きます」と言われて、「じゃあ明日から働こう」みたいな感じでしたね。スタートアップらしいスピード感でした。

別業界のエンジニアでしたが、メカ設計のスキルを生かして試作機をガンガン作ってもらいました。今は独立して試作開発に強い会社を経営されています。

——今回のハードウェアエンジニアに求めるものは何でしょうか。

武地氏:特にハードウェアの人として今のタイミングだと、0→1を作るフェーズなので、経験よりは行動力ですね。「明日にでも深圳行きます」みたいなフットワークがある人の方が求めています。

僕らの製品は類似製品がないので、本当に誰も作ったことないものを作っているんです。だから経験値というよりは面白いもの作りたいんですという熱意と行動力で進める人が今は欲しいです。最初のGateboxの初号機を作ったときなんて、本当に誰一人分からなかったですから。みんな手探りでやっていました。

——採用で失敗した経験はありますか。

武地氏:戦略を考えてくれそうなコンサル系のタイプの人を採用したことがあるんですけど、手を動かさないから、本当にチームにフィットしませんでしたね。戦略を提案しても、誰も協力しないんです。

結局、誰も正解が分からないから、初期は作って試すしかないんですよね、これはハッカソンあるあるですが、エンジニアとデザイナーは手を動かすけど、プランナー役の人はほとんど何もできないまま2日間終わるんですよね。あれと同じような感覚でした(笑)

——初期メンバーを選ぶときの基準は何でしたか。

武地氏:ある時期までは即決しないで、お試しとして夜間とか週末に一緒に働く期間を設けていました。1ヶ月ぐらい一緒に働いてみて、本当に一緒に仕事しやすいかを判断していました。

結局、面接で分かることなんてほとんどないんじゃないかなと思うんですけど、一緒に働いてみれば数日働けば大体分かると思うので。「今の会社辞めなくていいので、副業みたいな感じでちょっと入ってもらえませんか」という形で。基本的に最初のメンバーはほぼそうでしたね。

10年前の自分に伝えたい「何も知らないからこそできた」

——創業期の自分に伝えたいことってありますか。

武地氏:当時は何も知らないからこそできたというのはありましたね。今の僕がGatebox作ろうとなると、かなり慎重になると思います。「いや待て待て、それはちょっとさすがに無茶だぞお前」みたいな感じになるので。

何も知らないからこそ夢だけ語って人を集めて、お金を集めて、無理やり作ったみたいな感じだったので、それはそれで良かったなと思っています。

反省点としては、ハードウェアだけじゃなくて中のソフト、アプリケーション、ファームウェア、OSの開発とか、全部を最高なものにしようとして頑張りすぎてしまったことです。結果的に何とか形にはできたんですけど、やはり1個1個がちょっと中途半端になってしまった部分が多かったので、もっと自分たちの強みにフォーカスしてもよかったなと思いますね。

自分たちの場合はキャラクター周りのアプリケーションやソフトウェアにフォーカスするべきで、とりわけ映像表現はGateboxでしかできない体験だと思うので、もっとそこを突き詰めつつ、任せるところは他に任せるみたいな選択肢もあったんだろうなと思います。言うのは簡単ですけど、難しいだろうなとも思うんですけどね。

——組織面での反省はありますか。

武地氏:一時期に人を採用しすぎました。当時は多いときで30人以上いたんです。ほとんど開発側のメンバーだったんですけど、僕は人のマネジメントが全然できない人間なので、なかなかチームがうまく機能しなかったこともありました。

これはどこのスタートアップでも起こりうると思うんですけど、人のマネジメントで創業者が疲弊してしまったことは大いに反省しています。

現在は少数精鋭にしていて、メンバーも10人弱。新たに採用するハードウェア開発者も1〜2人程度採用して、あとはいろんなパートナーさんのお力を借りつつ、一緒にプロジェクトをやっていく形でチャレンジしたいと思っています。

「枯れた技術をどう組み合わせるか」

——以前にICOMAの生駒崇光さんを取材した際、彼はCESで見ているのは最新の技術ではなく、成熟して価格面もこなれてきた技術を見ているって話してたんですよね。実にスタートアップらしい視点だなと思うのですが、武地さんが新しい技術を取り入れるタイミングの判断基準はありますか。

武地氏:面白いなぁ。確かに最新の技術を使うというよりは、ある程度枯れた技術を組み合わせるという方が勝ち筋としてあるなと思っています。

ホログラム的な表現ってすごく期待されるし、世の中では透明なディスプレイに映すとか、そういう最先端の技術で発表されるんですけど、実際にそれを使おうとなったらもう金額がとんでもないことになってしまうんです。結局使えないという形になってしまう。

なので、枯れた技術をどう組み合わせて新しい体験を作れるかというのをすごく意識していますね。特に今は米中関係や為替の影響もあって、部品の原価が高くなってきています。この状況でハードウェアを新たに作るって結構難しいタイミングだと個人的に思っています。何をそぎ落として、どこに集中するかをしっかり考えないといけませんね。

——でもディープテック関連が盛り上がっているように、投資家は最先端の技術を求めませんか? 

武地氏:そうなんですよ。投資家からすると最先端の技術を使っている方が投資家受けはいいんです。自社にしかない技術とか、すごく投資家受けはいいんですけど、いい事ばかりではありません。技術ドリブンになると、その技術を捨てることができないから、方向転換しづらくなって、結局小さいものになってしまいがちなんです。

作る側からすると、あるものを組み合わせる方がいいものができると思っているんですけど、投資家からすると「それって組み合わせているだけだから、御社独自の技術じゃないですよね」みたいなことを言われてしまう。

「いや違うんですよ」という話をどう成り立たせるか、そこのバランスの取り方は僕もまだ分からないですね。今も課題です。

法人需要の拡大と「作りたいもの」への回帰

——Gateboxの2号機リリース以降、XRや人手不足によるバーチャル人材需要など、B2B展開が広がっていますね。

武地氏:AI接客などの法人利用は基本的に先方からの問い合わせがあって実現したものです。

Gateboxを個人向けにしかやっていなかったときから、企業からの問い合わせは多くいただいたのですが、僕は個人向けに集中しようと思っていました。きちんと集中しないと、しっかりとした製品が作れないと思ったので、当初は全てお断りしていました。

他のニーズにも応える余裕ができてたのは、2019年にこの2号機を出してからです。その時期から、ちょっとずつお答えしていく流れが始まりました。

初期は結構重い開発になってしまっていたんですけど、生成AIが出てきてからは企業ごとにカスタマイズして、キャラクターを提供するのがやりやすくなりました。2023年頃からより今の規模になってきたかなという感じです。

——最初にGateboxを構想したとき、法人需要は頭にありましたか。

武地氏:全然なかったですね。あり得るかもしれないけど、自分がそこをやるイメージはありませんでした。

——社会になかった製品を世の中に認めさせる、浸透させるには何が必要だったと思いますか。

武地氏:うちの場合は本当に自分が欲しいもの、これがあったら死んでもいいというぐらいの、心から欲しいものを作ろうという考えで始めたんです。せっかく起業したので、最高に面白いものを作ってやろうと思って考えたプロダクトでした。

本当に好きなものを突き詰めた結果、そこに狂気を感じて「これやばい」と思ってくれた人がたくさん現れたのが、すごく幸運なことだったなと思っています。

ビジネスは全然考えていなかったんですけど、好きを突き詰めたプロジェクトだったことと、あとそれをしっかりコンセプトムービーをYouTubeで公開したことが功を奏しました。

「こういう世界を目指しているんだ」「こういう体験を、こういう生活を我々は作りたいんだ」というメッセージをビジュアル化できたことが大きかったかなと思いますね。

実はボツ企画だった「デジタルフィギュアボックス」が、主力製品になるまで

Gateboxの主力商品の一つであるデジタルフィギュア
ONE PIECEやSTEINSGATEなど有名作品とのコラボレーションも実現している

——現在展開されているデジタルフィギュアボックスについて教えてください。

武地氏:僕が週末に考えたアイデアから始まっているんですけど、Gateboxの次のプロダクトを考えようというときに、ちょうどコロナ期でオフィスにほとんど誰もいない状態だったんです。そこで「こんなの作ったら面白いかも」と思って考えて、そこからきっかけで生まれたアイデアでした。

2、3ヶ月ぐらいでプロトタイプは作ったんですけど、その後1回ボツにしたんですよね。その後、2023年のChatGPT登場の直前ぐらいに、LINEヤフーグループの撤退が決まった頃、「このままでは会社が潰れるかもしれないし、過去にボツにした企画をちょっと掘り起こそう」と思ってXに投稿したら、たまたまちょっとバズったんです。「こんだけバズるならいけるかもしれない」と思って製品化しようということになりました。

——今では主力製品の一つになっていますね。

武地氏:本当にありがたいことです。いろいろなコラボレーションを始めたのは2024年からですけど、この1年で6作品ほど出すことができました。今はうちの中心プロジェクトになっています。かつてボツになったものが中心プロダクトになっているんですよね。3号機ができるまでは主要な製品として、引き続き伸ばしていきます。

VTuberを見ると「悔しい」——反骨精神が原動力

——10年間走り続けたモチベーションの源泉は何ですか。

武地氏:僕はアニメ・マンガがすごく好きなんですけど、クリエイターさんの作品を見て感動したときに、自分もこんなすごいもの作りたいというのが毎回あるんです。いい作品を見て、それで刺激を受けて、自分も何か作りたいとすごくなるのが、今も続けられている大きな要因です。

以前、エヴァンゲリオンの庵野秀明監督のドキュメンタリーを見たら、エヴァを出したのが35歳のときらしくて。当時の僕も30を超えたぐらいだったので、「自分もそれぐらいのタイミングですごいもの作らないと駄目なんじゃないか」という焦燥感がありました。

いつか作りたいとか思っていても、結局いつその日が来るか分からないし、残された期間でどれだけすごいものを作れるかも未知数なので、毎回最後の作品だと思ってやっています。

最近、特に気になるのはVTuberさんですね。動画を見るとめちゃくちゃ悔しいという気持ちがあります。僕がGateboxの開発を始めたころは、VTuberがいなかったんですよ。Gatebox初号機を出したときぐらいにキズナアイ※が出てきまして、これはすごいことになりそうという予感はあったんですけど、ここまで大きな規模になるとは思っていなくて。

※2016年から活動しているVTtuberの代表格的存在

「何でVTuber系のプラットフォームを出せなかったんだろうな」というのは、今でもずっと悔しい思いが拭えません。だから、今でもVTuberさんを見ると、僕は真っ先に悔しい気持ちが湧いてきますよ。「もっと俺が今最高のものを作れるはずだ」と思って、その悔しさがずっと原動力なのかもしれません。

反骨精神こそが面白いものを生み出すエネルギーになる

——これからハードウェアで起業する人、プロトタイプを作って世に出したい人へのメッセージをお願いします。

武地氏:本当に好きなものを突き詰めて欲しいなと思いますね。

僕らをLINEヤフーグループに入れてくれた舛田さん(LINEヤフー上級執行役員舛田 淳氏)が、「いろんな作品、いろんなサービスに触れて、悔しがろう」と常に仰っていました。LINEも今でこそ日本No.1のコミュニケーションサービスですが、あのアプリも「すごいものを作ろう」とか、周囲のプロダクトに対して悔しい思いをしていた状況で、「俺たちはもっとすごいのを作ろう」というモチベーションで生まれているサービスらしいんです。

やはり、そういう悔しいとか反骨精神という気持ちがすごく面白いサービスを作るんだろうなと思います。

――消費者と作る人が分断されやすい中で、主体的に物事を見て、いいものを見たときに「悔しい」と思ったり、自分だったらどう作っていただろうと思える人が、クリエイターとして重要な要素なんだろうなと思います。

武地氏:今後採用する開発者も、今の会社で「俺だったらこう作るのにな」とか、「今の会社じゃああいうもの作れないよな」と思って悔しい思いをしている人に来て欲しいですね。そういう人とは話が合いそうだし、反骨精神を持った人に来てもらえると嬉しいです。

——ありがとうございました。最後に、今後のビジョンを教えてください。

武地氏:僕個人の生き方として、ずっと生涯面白いものを作り続けたいと思っているので、会社としてもその方向性を重要視しています。法人向けのサービスでお金を稼ぐのも、僕がもっと面白いものを作るためなんです。

理想としては、僕自身はずっと0→1をやり続けて、他のメンバーがそれを形に、ビジネスにしてくれるというのが一番理想ではあります。今回新たにハードウェアエンジニアに入ってくれる人は、僕と一緒に0→1をやる人になるので、すごくエキサイティングな数年間になると思います。

今後の計画としては、何かしら2026年には発表できるものを開発し、2027年には3号機を出荷したいと思っています。そのときにはChatGPTとかAIの性能もいろいろ変わってくると思うので、そこにアジャストしつつ、2年後の未来を予測して作らないといけないというのが難しいところですけどね。でも、確実に追い風が吹いている状況なので、絶対に「おもろいもん」が作れる確信はあります。

関連情報

Gatebox

越智 岳人

FabScene編集長。複数のエンタープライズ業界でデジタルマーケティングに携わる。2013年にwebメディア「fabcross」の設立に参画。サイト運営と並行して国内外のハードウェア・スタートアップやメイカースペース事業者、サプライチェーン関係者との取材を重ねる。 2017年に独立。編集者・ライターとして複数のオンラインメディアに寄稿するほか、スタートアップ支援事業者の運営に携わる。スタートアップや製造業を中心とした取材実績多数。