機械式のカウンターは通常、回転ドラムやフリップ表示を使う。しかし、今回紹介する製作者は10面ダイス(d10)を使った独自のアプローチを考案。ベベルギアと遊星歯車を組み合わせた機構により、ノブを回すだけでダイスの向きを正確にコントロールし、0から9まで順に表示できる仕組みを実現した。
製作者のFunctionally Frivolousチームは、d10(10面ダイス)の特性に着目した。d10は0から9までの数字が刻まれており、デジタル時計の1桁と同じ範囲をカバーする。この特性を生かせば、ダイスを使った時計が作れるのではないか。そのアイデアから、まず単一桁のカウンターを設計することにした。
d10は2つのピラミッド状の半分から構成される。片方に偶数(0, 2, 4, 6, 8)、もう片方に奇数(1, 3, 5, 7, 9)が配置されている。数字を順に表示するには、偶数側と奇数側を交互に切り替える必要がある。つまり、各インクリメントごとに180度反転(フリップ)させる動作が必要だ。
しかし、それだけでは不十分だ。2つの半分は36度ずれているため、単に180度反転を繰り返すだけでは、同じ面と稜線を交互に表示するだけになる。そこで、ダイスをピラミッドの頂点を軸に回転(スピン)させる機構も必要になる。
製作者が各数字の遷移に必要な回転角度を調べたところ、108度、180度、252度の3種類が必要だと判明した。ただし、252度は-108度(360度-252度)と考えることができる。つまり、180度と±108度の2種類の回転距離と、2つの回転方向を制御すればよい。
ダイスは2つのスプール状の部品で保持される。スプールの端には多面的なカップがあり、ダイスの頂点を掴む。このスプールは「フリップキャリア」と呼ばれる部品に取り付けられ、1つの回転軸のみで自由に回転できる。フリップキャリアが回転することで、ダイス全体が反転する仕組みだ。
入力は回転ノブなので、垂直方向の回転を水平方向のフリップ軸に変換する必要がある。これにはベベルギアを使用した。ノブを180度回転させると、ベベルギアを介してフリップキャリアが180度回転し、ダイスが反転する。
スピン動作を実現するため、一方のスプールに歯車の歯を追加し、「スピニオン」(Spin-Pinionの造語)と名付けた。スピニオンが転がる歯のリング「スピンリング」を配置することで、フリップ動作中にダイスをスピンさせる。
歯車比は、フリップ中に180度のネットスピンを生み出すよう設定されている。実際には合計900度回転するが、360度ごとに元の位置に戻るため、ネットでは180度だけ回転したことになる。この180度スピンは、4から5、9から0への遷移で使用される。
±108度のスピンは、スピンリング自体を回転させることで実現する。スピンリングをフリップと同じ方向に回転させると、スピニオンが通過する歯の数が減り、スピンが少なくなる。逆方向に回転させると歯の数が増え、より多くスピンする。
回転方向の切り替えには、ベベルギアの特性を利用した。入力ギアが出力ギアの上部で駆動すると、下部で駆動する場合と逆方向に回転する。この原理を使い、2つの入力ベベルギアに歯のある部分とない部分を交互に配置し、スピンリングの制御を交代で担当させる。両方のギアに歯がない領域では、スピンリングは回転せず、180度のスピンが生成される。
高い減速比を実現するため、遊星歯車システムを採用した。太陽歯車は入力ノブに直結し、遊星歯車は固定され、内歯車が入力ベベルギアに組み込まれている。このシステムはコンパクトなスペースで必要な減速比を実現する。
スピンリングが入力ギアと噛み合っていない状態では、フリップキャリアがスピンリングを引きずってしまう問題がある。これを防ぐため、ばね式のデテント機構を追加した。ハウジングにばね状のタブを設け、スピンリングの対応する溝に係合させる。各スピンリング位置にノッチがあり、一貫して保持できる。
フリップキャリアにも同様のデテント機構を追加し、正確な位置でカチッと固定されるようにした。これにより、各インクリメントで正しい構成を維持できる。また、フリップキャリアとスピンリングがアセンブリから脱落するのを防ぐ留め金としても機能する。
このシステムの優れた点は、入力ノブを逆方向に回すだけで完全に逆動作することだ。追加の機構を切り替えることなく、カウントアップとカウントダウンを簡単に切り替えられる。これは往復プランジャーやレバーなど、他の入力形式では実現できない。
製作者は、これが最初の試作であることを強調している。当初の目標は時計の製作だった。d10を4つ使えば4桁の時計ができるが、時間表示には12面ダイス(d12)を使い、d10を2つにすれば3桁で済む。より効率的で「クールな」ダイスベースの機械式デジタル時計という構想だ。
しかし、時計を作る前に、まず単一桁のカウンターとして機能させる必要があった。その過程で、これ自体が面白いデバイスになることが分かった。現在のバージョンは両手操作が必要だが、将来のV2では片手操作を実現したいという。ラチェット機構を多用した初期の試作では、音は良かったが機能が不十分だったため、現在のデュアルベベル方式に落ち着いた。
また、複数の桁を連結できるモジュール設計も検討している。4桁版で時計を作る場合、各桁のスピンリングを収容するため桁間隔が広くなり、読みにくくなる懸念がある。d12を使った時間表示版は、d10よりも複雑な機構が必要だが、いつか挑戦したいとしている。
製作者はRedditの3Dprintingコミュニティで設計を公開し、多くの関心を集めた。今後、印刷時の再現性を向上させ、部品の強度を改善した上で、設計データの公開を検討している。