ギターの弦は通常、ブリッジとナットの2点でボディに固定されている。スウェーデンのエンジニア兼YouTuberであるMattias Krantz氏が、この常識を覆すギターを製作した。弦の一端をブリッジに固定する代わりに強力なネオジム磁石で引っ張り、弦をボディから浮かせたまま演奏できるようにしたものだ。
出発点は、弦の先端に小さな磁石を結びつけるというシンプルなアイデアだった。見た目は面白いが、弦の張力が足りず息で吹き飛ばせるほど緩く、音はほとんど出なかった。Krantz氏は磁石を段階的に強化していったが、磁力はギャップ(隙間)を挟むと急激に低下する。計算の結果、最初の磁石の5倍の強さが必要と分かった。
最終的にたどり着いたのは、全弦を1つの大型磁石にまとめるアプローチだ。引力250kgクラスのネオジム磁石を採用した。梱包は手榴弾のような厳重さで届き、試しに鍛冶屋の金床に貼り付けたら二度と外せなくなったという。4本の細い金属弦だけが、ボディ側とブリッジ側の2つの磁石が激しく衝突するのを防いでいる状態だ。
チューニングでも従来にない課題が生じた。全弦が同じ浮遊する磁石に接続されているため、1本の弦を締めると他の弦の張力も変わる。通常のペグだけでは調律できない。Krantz氏は弦の太さと長さの組み合わせでおおまかな音程を決め、最後の微調整だけペグで行う方法を編み出した。丸一日を費やしてようやくチューニングが完了したという。
構造面では、最初に3Dプリントした樹脂製ボディが磁石の引力に耐えられず変形した。金属フレームに作り直すことで強度の問題を解決している。デザイナーのShervin氏と協力し、弦が浮いている様子が外から見えるシースルーのボディ形状にした。
演奏してみると、弦がどこにも接触していないため独特の感触がある。Krantz氏は「トランポリンの上で弾いているような感覚」と表現した。浮遊する磁石を横に押せばビブラートのようにピッチが変わり、ピックアップに近づければ音量が上がる。磁石をフリックすると振動が生じ、トレモロに似た効果も得られる。従来のギターにはない、磁石の物理的な操作が新たな表現手段になっている。
Krantz氏はさらに、磁石を効率的に操作するためのレバー機構も追加した。ただし、レバーの重量が磁石のバランスを変えるため、取り付けるとチューニングがずれるという新たな問題も発生している。「この日は心臓発作になりかけた」とKrantz氏は語りつつ、10本の指が無事だったことに安堵していた。