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壊れたスキャナーのCCDセンサーで32億画素カメラを製作、撮影30分・サイズは19GB超

ドイツのコンピューターエンジニアYannick Richter氏が、EpsonスキャナーのCCDセンサーを使った32億画素の中判カメラ「Project Gigapixel」を製作した。既存のスキャナーカメラプロジェクトの多くが元のスキャナーハードウェアをそのまま流用するのに対し、Richter氏はセンサーの通信プロトコルをリバースエンジニアリングし、インターフェースからソフトウェアまで独自に開発した。

高解像度な写真を撮影するには大型センサーが必要だが、中判トカメラは高価で入手も難しい。Richter氏が目を付けたのは、平面スキャナーに使われる線形CCDセンサーだ。スキャナーは静止した対象を1ラインずつ読み取ることで、カメラよりもはるかに高い解像度を実現している。

Richter氏はeBayで故障品として販売されていたEpson V300とV370の2台を入手。スキャナーの分解からプロジェクトを始めた。これらのスキャナーには、12万2400ピクセルを持つILX561K CCDセンサーが搭載されている。このセンサーは12ライン構成(RGB各色に2つのメインラインと2つのサブライン)で、ベイヤーフィルターを使わずに真のカラー画像を取得できる。

通信プロトコルの解析と新規実装

画像出典元:Reddit

既存のスキャナーカメラプロジェクトが直面する課題の一つは、スキャナーが起動時に白色キャリブレーション用の反射ストリップを検出しなければエラーになることだ。Richter氏はこの制約を回避するため、メイン制御基板とCCD基板間の通信を解析することにした。

オシロスコープでデータラインを観測し、V200スキャナーの回路図を参考にしながら、半二重SPIプロトコルであることを特定した。日本語のデータシート(7R77021)も参照しながら、レジスタの機能を解読していった。例えば、レジスタ0x78、0x79、0x7Aは赤、緑、青のゲインとオフセット設定であることが判明した。

Richter氏はRaspberry Pi Picoを使ってCCDアセンブリと通信するプロトタイプを製作。ソフトウェアビットバンギングで通信を実装し、後にRaspberry Pi 5のRP1チップのPIO機能を使った高速化を行った。

3Dプリントとアルミ加工の筐体

カメラの筐体は3Dプリントとアルミ加工を組み合わせて製作されている。センサーとレンズ間の距離を正確に制御するため、内部ベースプレートとレンズアダプター用フロントプレートはアルミニウムで機械加工した。レンズにはPentax 6×7システムの中判用レンズを採用。75mmと200mmの2本を使い分けている。

撮影補助機能として、同じ焦点面にCSIカメラを配置してライブビューとフォーカシングに使えるようにした。8インチのタッチスクリーンを搭載し、プレビューモード、ギャラリーモード、ラインスキャンモードを備えたユーザーインターフェースを開発。NVMe SSDを内蔵して、センサーアセンブリのわずか1mm上に配置している。

フル解像度での撮影は30分以上、画像サイズは19GB

このカメラは最大80000×40000ピクセル、32億画素(3.2ギガピクセル)の画像を16ビットカラーで撮影できる。ただし線形スキャンの性質上、静止した明るい被写体しか撮影できない。フル解像度での撮影には30分以上かかり、ファイルサイズは非圧縮で約19GBになる。プレビュースキャン(約3500ピクセル高)は10秒程度で完了する。

実用性を考慮して、Richter氏は1万ピクセル/ラインのメインラインのみを使う設定を推奨している。全ラインを使うと色チャンネル間や同一色チャンネル内でもオフセットが発生し、補正が複雑になるためだ。カメラは最大100ラインまでの循環バッファーを使って、リアルタイムでオフセット補正を行いながら撮影する。

ラインカムモードでは、センサーを中心に固定して通常のカメラのように露光するが、移動する被写体を撮影すると独特の効果が得られる。このモードは本来、フィニッシュラインカメラや動く物体の撮影に使われる。

Richter氏によれば、このカメラは市販のミディアムフォーマットカメラと比べてはるかに安価だが、多くの部品と工具が必要で、数か月にわたる開発時間を要したという。Project Gigapixelの詳細はYouTubeで公開されている。


関連情報

Project Gigapixel: Developing a 80000×40000 linear scanning medium format camera (YouTube)

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FabScene編集部

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