カナダのトロント大学の研究チームが、AIとロボットを組み合わせた実験装置を使い、金属3Dプリンターで造形できる耐熱合金を6種類見つけた。ニッケルとコバルト、クロムの3元素だけの構成で、10元素以上を混ぜた既存の耐熱合金に迫る、あるいは上回る性能を示した。成果は2026年6月23日付でnpj Advanced Manufacturingに掲載され、大学が7月13日に発表した。
ジェットエンジンの内部や原子力発電所の蒸気発生器のように、温度と圧力が大きく振れる場所では、普通の鋼材はもたない。こうした環境向けの合金は、ニッケルやコバルトを主成分に、10種類ほどの元素を少しずつ混ぜて作るものが多い。ただし、3元素以上を大きな割合で混ぜる組成は、組み合わせが数万通りにもなり、しらみつぶしに試すのは難しかった。レーザーで溶かして積む金属3Dプリンターに向く組成となると、さらに絞り込みが要る。
研究チームは、この探索をAIに任せた。使ったのは能動学習と呼ぶ手法で、計算モデルと機械学習、ロボットによる製造・試験を組み合わせ、人の手をほとんど介さずに次に試す組成を決めていく。筆頭著者で博士課程のAjay Talbot氏は、多くの機械学習モデルは大量のデータを必要とするが、未踏の領域にはそのデータがないと説明する。そこでデータが少なくても進める設計にし、モデルが試すべき数点を選んで作り、その結果をモデルへ戻して次の一手を決める形にした。
対象はニッケル、コバルト、クロムの3元素とした。数週間で、モデルは有望な6種類を絞り込んだ。6種はいずれも、3元素を等しい割合で混ぜた従来のNiCoCr合金より、室温で最大4割ほど硬い。
なかでも2種が際立つ。ニッケル12%、コバルト62%、クロム26%の合金は、ジェットエンジンの前方にあたる600℃でも硬さを保った。等しい割合のNiCoCrと比べて約50%高い硬さを維持する。Talbot氏によると、この分野の業界標準であるInconel 625と比べても、実験室での試験で4.5%上回った。Inconel 625は10種類以上の元素からなる。
もう1種のニッケル36%、コバルト14%、クロム50%は、より高温の1000℃向けだ。温度がここまで上がると、材料の表面が酸化して削られていく。試験では、従来の超合金と比べて酸化による質量の増加を85%抑えた。
論文は、性能が最も高い組成は、3元素を等しく混ぜた点から遠く離れた場所にあることを示した。用途を先に決めて探索を導けば、はるかに少ない実験回数でそこへ届く。
Talbot氏は、今回のニッケル・コバルト・クロム系は3元素だけの比較的単純な系であり、閉じた輪で探索が回ることを示すのが目的だったとする。次は元素を10種から12種まで増やし、1200℃までの高温に耐える材料を狙う。元素が増えるほど、強さを生む仕組みも増えるとしている。