Appleは2025年11月、Apple Watch Ultra 3およびApple Watch Series 11チタニウムモデルのケース製造に3Dプリント技術を採用したことを発表した。100%リサイクルの航空宇宙グレードチタン粉末を使用し、従来の鍛造・切削加工と比較して原材料使用量を50%削減した。同社は2025年だけで400トン以上の原材料チタンを節約できると試算している。
製造にはLaser Powder Bed Fusion(LPBF)方式を採用している。約50マイクロメートルのチタン粉末を、6つのレーザーを搭載したガルバノメーターで同時に焼結し、60ミクロン厚の層を900回以上積み重ねてケースを形成する。
使用するチタンはグレード23で、酸素含有量を低減した仕様となっている。チタン粉末は加熱時に高い爆発性を持つため、低酸素化は製造上の安全性を確保するために必要な処置だ。素材は複数の外部サプライヤーからリサイクルチタンを調達し、厳格な化学組成要件を満たすよう精製している。
従来の切削加工では大きなチタンブロックから削り出すため、大量の廃材が発生していた。3Dプリントは必要な形状に近い状態まで積層するため、材料効率が向上する。同社はこの技術により「1つ分の材料で2つのケースを製造できる」としている。
3Dプリントにより、従来の鍛造では到達できなかった複雑な内部形状も形成可能になった。セルラーモデルでは、プラスチック部品との接合部にテクスチャーパターンを直接プリントし、金属とポリマーの結合強度を向上させている。これによりシール性能と無線性能が改善したという。
同技術はiPhone Airの5.6mm厚筐体に搭載される薄型USB-Cポートのフレームにも適用されている。ポート内部にはひずみ逃げ、電磁シールド、熱管理機能が統合されており、従来は複数の切削部品と組立工程が必要だった構造を単一パーツで実現している。
Appleは10年以上にわたり3Dプリント技術の研究を続けてきた。製品設計担当バイスプレジデントのKate Bergeron氏によると、これまで3Dプリントでは量産レベルでの外装部品製造は困難とされていたが、継続的なプロトタイピングとプロセス最適化、データ収集により品質基準を満たせることを実証したという。
※記事初出時に記載に誤りがありました。訂正してお詫びします(2025年11月26日 12:18)
Mapping the future with 3D-printed titanium Apple Watch cases(Apple Newsroom)