電卓より少ない消費電力で動くコンピューターが、AIデータセンターの主役になるかもしれない。それも、シリコンチップではなく、ヒトの脳細胞で動くコンピューターだ。
ヒト由来の神経細胞をシリコンチップ上で培養するバイオコンピューター「CL1」を手がけるオーストラリアのスタートアップCortical Labsは2026年3月10日、同製品を使ったデータセンターをメルボルンとシンガポールの2カ所に開設すると発表した。
CL1はヒト幹細胞(血液細胞)から培養した神経細胞約20万個をシリコンチップ上に配置したバイオコンピューターで、チップ上の電極が神経細胞に電気信号を送受信することで情報処理を行う。神経細胞は栄養溶液の中で最長6カ月間生存できるよう生命維持システムを内蔵しており、独自OS「biOS」を通じてPythonで直接コードを実行できる。1台3万5000ドル(約550万円)で販売中。
Cortical Labsが特に強調するのは消費電力の低さだ。CL1の消費電力は1台あたり約30Wで、ラック1台分(複数ユニット)の合計でも850〜1000W程度に収まる。比較として、AIワークロードを処理するGPU1基の消費電力は最大6000Wに達する。同社創業者兼CEOのHon Weng Chong氏は、CL1の消費電力は「電卓よりも少ない」と述べている。
メルボルンのデータセンターには120台のCL1を収容するプロトタイプが既に稼働している。シンガポールでは、データセンター事業者のDayOneおよびシンガポール国立大学(NUS)Yong Loo Lin医学部と連携し、まずNUSに20台(ラック1台分)を展開して検証フェーズを開始する。その後、DayOneの商用データセンター施設への移行を目指し、最終的には最大1000台まで拡張する計画だが、規制当局の承認を前提としている。
同社はCL1の能力を実証するデモを続けており、先週には神経細胞がゲーム「DOOM」のプレイを1週間で習得した動画を公開した。神経細胞はシリコンAIと異なり、大規模な学習データを必要とせず、電気刺激への応答を通じてリアルタイムに適応・学習する性質を持つ。
ただし、同技術が商用AIワークロードに実用的に対応できるかは現時点では未確認で、研究機関向けの実証フェーズが続いている段階だ。