独シュトゥットガルト大学の研究チームが、体内で直接生体組織を3Dプリントする技術の開発に取り組んでいる。2025年10月13日、同大学が発表した。この技術が実現すれば、従来のように体外で組織を作って移植する手間が不要になる。
同大学応用光学研究所のAndrea Toulouse氏は、カール・ツァイス財団から180万ユーロ(約2億9000万円)の資金提供を受け、新たな研究グループ「3D Endoscopic Microfabrication(3DEndoFab)」を2025年10月1日に立ち上げた。この資金はCZS Nexusプログラムの一環として提供される。
現在、軟骨や筋肉、肺組織などを3Dプリントする技術は実験室レベルで実現している。しかし、これらの組織を体内に移植する工程は複雑で、従来の3Dプリンターは大きすぎて体内では使用できない。Toulouse氏のチームは、光ファイバーを通じて体内で直接組織をプリントする内視鏡的アプローチでこの課題を解決しようとしている。
技術の核心は、ガラスファイバーの先端に配置される塩粒サイズの3Dプリント微小光学レンズだ。このレンズがレーザー光を成形し、バイオインク(生体組織を作るためのインク)を層ごとに硬化させて、マイクロメートル解像度(細胞スケールの精度)で複雑な組織構造を造形する。Toulouse氏は「塩粒サイズの3Dプリント微小光学素子をガラスファイバーの先端に配置する。そこで光を成形し、人間の細胞スケールであるマイクロメートル解像度で複雑な組織構造を3Dプリントできる」と説明している。
研究グループは、工学分野の博士課程学生2名とバイオテクノロジー分野の学生1名で構成され、学際的なアプローチをとる。同大学の生体材料・生体分子システム研究所のMichael Heymann教授と緊密に連携し、プリント技術の改良だけでなく、体内に安全に統合できるバイオインクの開発も進める。
この技術の実現可能性は、以前のプロジェクト「EndoPrint3D」ですでに実証されている。同プロジェクトでは、Toulouse氏がスポークスパーソンを務め、Alois Herkommer教授、Heymann教授、Harald Giessen教授とともに、超短フェムト秒パルス(超短時間のレーザーパルス)を使った内視鏡的3Dプリントのテストに成功した。
3DEndoFabグループの中心的な研究課題は、光ベースの3Dプリント手法のうちどれが生物医学的文脈での内視鏡使用に最適か、そしてファイバーベースの3Dプリントを低侵襲かつ効率的、安全に実装する方法だ。研究チームは、微小な足場構造が人体の細胞の成長を誘導できるか、また組織再生プロセスを開始して体が自律的に完成させられるかといった生物学的な基礎問題にも取り組む。
CZS Nexusプログラムは、さまざまなSTEM分野(科学、技術、工学、数学)の境界領域で学際的な研究アイデアを持つ若手研究者を支援する。カール・ツァイス財団は1889年に物理学者・数学者のErnst Abbeによって設立され、ドイツで最も古く大規模な民間科学資金提供機関の1つだ。