独Fraunhofer IISBは、アルミニウムとグラファイトを活物質とするデュアルイオンバッテリー(AGDIB)のシステムデモンストレーターを完成させた。リチウムフリーのバッテリー技術としては世界初の完全なシステム実証となる。
電気自動車や再生可能エネルギーの普及に伴い、蓄電システムへの需要が高まっている。一方で、リチウムイオン電池の原材料調達やリサイクルには課題が残る。INNOBATTプロジェクトは、こうした問題に対する一つの解答として、アルミニウムとグラファイトという入手しやすい材料を使った新しいバッテリー技術の実用化に取り組んできた。
AGDIBは充放電が高速にできる点が特徴で、電力網の周波数変動を吸収する動的グリッド安定化などの用途に適している。研究室レベルの試験セルでは、放電深度100%で1万サイクル以上の寿命を確認しており、クーロン効率はほぼ100%、エネルギー効率は85%以上を達成している。
今回のデモンストレーターでは、8つのAGDIBパウチセルを4直列2並列(4s2p)構成で組み上げ、実際のグリッド周波数データを使った瞬時予備力のエミュレーション試験を実施した。10Cという高い電流負荷での長時間動作でも安定した性能を示し、セルレベルで得られていた結果がモジュールレベルでも再現できることを確認した。
システム全体の設計にも工夫がある。バッテリー管理システム(BMS)には、Fraunhofer IISBが開発したオープンソースプラットフォーム「foxBMS」を採用し、無線通信で親機・子機間のデータをやり取りする。配線を削減できるだけでなく、設計の自由度も高まる。
電流測定には、ダイヤモンド中のNV(窒素-空孔)中心を利用した量子センサーを搭載した。従来のセンサーと比べて5桁にわたる広い測定レンジを持ち、微小な電流変動から大電流まで高精度に捉えられる。
リサイクル性も開発当初から考慮されている。セルの分解には有害な化学薬品を使わない物理的分離プロセスを採用し、EUの現行規制を上回るリサイクル効率を達成した。AGDIBの活物質であるアルミニウムとグラファイトはいずれも低コストで入手しやすく、材料の閉ループ化も視野に入る。