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「Global Startup EXPO 2025」大阪・関西万博で開催、世界の課題解決に挑むディープテック企業が集結

2025年9月17日から18日の2日間、大阪・関西万博のEXPOメッセ「WASSE」において、ディープテックスタートアップが世界から集まる「Global Startup EXPO 2025」が開催中だ。同イベントは「地球との共存」「人口に頼らない社会」「豊かな生活」「健康と長寿」「新技術のルールメイク」の5つのテーマを掲げ、世界規模の課題解決に挑む150社のスタートアップが出展している。

会場ではセッション、ピッチイベント、ブース展示、ネットワーキングが行われ、ディープテック分野の最新技術や社会実装の課題について、グローバル企業の経営者やスタートアップ創業者らが議論を交わす。以下、会場の展示ブースで取材した5社の技術を紹介する。

AIチップでエッジ処理を実現するfemtoAI

米femtoAIは、AI推論処理を高速化する専用チップを開発している。同社の技術は、大規模AIモデルを10分の1に圧縮し、エッジデバイスでの動作を可能にする。通常、大規模なAIモデルをそのままエッジで動かすには10倍の大きさのチップが必要となり、サイズ、電力、発熱、コストの面で課題があった。同社はスパースモデリング(AIモデル内の不要なパラメータをゼロにして計算を効率化する技術)を活用することで、スピーカーや補聴器、家電製品などの小型デバイスでも音声インターフェースやノイズキャンセリングといったAI機能を実現している。日本でも複数の企業が同社のチップとソフトウェアを製品に組み込んでおり、今後さらなる展開が期待される。

危険作業を代替するロボット「Float Arm」を展開するHibot

Hibot(ハイボット)は、石油プラントや化学プラントなど人が作業すると危険な場所での点検作業を行うロボット「Float Arm」を開発している東京工業大発のスタートアップ。

同ロボットは、元々福島第一原発の廃炉作業用に開発された技術を基に、10年以上の研究開発を経て製品化された。アーム部分だけで30キロ、全体で120キロの重量を持ち、超音波センサーやX線検査機、3Dセンサーなど5種類のセンサーを先端に装着できる。ドローンや4足歩行ロボットではアクセスが困難な入り組んだ狭所での作業を得意とし、配管やタンクの定期点検を安全かつ低コストで実現する。2023年にドイツのメーカーに初号機を納入し、現在は日本、ドイツ、米国の3拠点でレンタル事業を展開。2025年には資金調達を実施し、事業拡大を進めている。

ヘッドセット不要のVR体験を提供するBRELYON

米BRELYONは、ヘッドセットを装着せずにVR体験を実現するディスプレイ技術を開発している。同社の技術は、LCD画面からの映像を曲面ミラーで反射させることで立体的な視覚体験を生み出すハードウェア的な仕組みが特徴だ。通常のHDMI入力に対応しており、特別なソフトウェアなしで利用できる。さまざまな業界で導入を進めており、ゲーム展示やドライビングシミュレーター、フライトシミュレーターなどの用途で活用されているという。

現在の価格は1台150万〜200万円(約1万〜1万3000ドル)と高価だが、量産化によるコスト削減と、より小型のモデル開発を進めている。

月面探査技術を農業に応用するKisui

Kisuiは、果樹園向けの自動運搬ロボット「adam」を開発している。同社の技術は月面探査ロボットの技術を農業に応用したもので、でこぼこ道やぬかるみ、坂道でも走行可能な特許取得済みの足回り構造を持つ。

果樹園は路面がでこぼこで枝葉に覆われているため、従来のロボットや機械では自動化が困難だったが、同社のロボットはその場での回転も可能な高い機動性を実現。GPS受信機を搭載し、あらかじめ設定したA地点とB地点の間を自動で往復走行する機能を持つ。2025年に正式販売を開始したスタンダードモデルは既に数台が農家に導入されており、来年にはミニサイズモデルの販売も予定している。

超小型人工衛星で多様なミッションに対応するArkEdgeSpace

東大発スタートアップのArkEdgeSpaceは、6Uサイズ(10cm×20〜30cm)の超小型人工衛星を開発している。ペットボトル2本分程度の大きさながら、海洋通信、地球観測、測位システム、光通信など多様なミッションに対応できる共通の衛星バスを設計している点が特徴だ。ミッションによって異なる電力要求やペイロードのサイズ、形状に柔軟に対応し、設計段階から最適化を行う。2025年2月には約80億円のシリーズB資金調達を実施し、政府の実証プログラムを進めながら商用化を加速。2028年から2029年にかけて本格的な商用サービスの展開を目指している。

関連情報

Global Startup EXPO 2025 公式サイト

越智 岳人

FabScene編集長。大学卒業後、複数の業界でデジタルマーケティングに携わる。2013年当時に所属していた会社でwebメディア「fabcross」の設立に参画。サイト運営と並行して国内外のハードウェア・スタートアップやメイカースペース事業者、サプライチェーン関係者との取材を重ねるようになる。 2017年に独立、2021年にシンツウシン株式会社を設立。編集者・ライターとして複数のオンラインメディアに寄稿するほか、企業のPR・事業開発コンサルティングやスタートアップ支援事業に携わる。 2025年にFabSceneを設立。趣味は365日働ける身体作りと平日昼間の映画鑑賞。