米ハーバード大学の工学とデザインの研究グループが、膨らませた後に形を変えられる膨張構造を開発した。しわの寄る場所を設計することで、1つの膜が複数の形で安定して止まる。成果は学術誌「Advanced Science」に掲載された。
浮き輪から自転車レースのアーチ、救命用の蘇生器、自動車のエアバッグまで、膨らませて使う構造は身の回りにある。ただし取れる状態は膨らんだときとしぼんだときの2つだけだ。
膨張膜は柔らかいが、圧力がかかると伸びるより曲がるほうを選ぶ。その結果、しわやくしゃくしゃが自然にできる。マイラー風船の縁に寄るあれだ。膨張構造を作るうえでは、避けるべき欠陥として扱われてきた。研究グループはそれを使えないかと考えた。
出発点は平らな長方形の小袋である。縁に切り欠きを入れて膨らませると、切り欠きが起点になってしわが面を横切って走る。走ったしわが機械的な蝶番になる。切り欠きの形と間隔を調整すると、内圧を一定に保ったまま、蝶番が鏡像の2状態を行き来する。1つの小袋が2つの安定形を持つ。
共同筆頭著者で米Gordon College助教のYi Yang氏は、しわを狙った場所へ意図的に集められるかが鍵だと説明する。集められれば、構造全体の安定性を調整できる。
この双安定のユニットをタイル状に並べると、規模が上がる。切り欠きの向きを変えることで、蝶番でつないだ板のように折れる1次元の鎖にも、複数の立体にはまる2次元のシートにもなる。小さな実演では、曲率が変わるパネルや、しわの蝶番が反転するとランプが点灯・消灯する膨張体を作った。
大型化には別の作り方が要った。大型のCNC切断機を改造し、ポリウレタンの広幅ロールに複雑な模様を溶着する。できた最大の試作品は人の背丈ほどで長さ数メートル、しぼませれば数人で運べる。屋外で膨らませると建物規模の外殻になり、円錐状の囲い、トンネル、天蓋の間で形を変える。
安全装置への応用も試した。多安定の構造は、状態が切り替わる瞬間にエネルギーを散逸する。落下試験で従来のエアクッションと比べたところ、生卵は通常のエアバッグでは跳ねて割れたが、多安定版ではより高い位置から落としても割れなかった。研究グループは、形が変わる仮設シェルターや適応型の安全装置を応用先に挙げる。