米プリンストン大学の研究チームが、処理済み排水から水素を生成する手法を開発した。硫酸で酸性化することで、カルシウムやマグネシウムによる膜の詰まりを防ぎ、300時間以上の連続運転を実現した。水処理コストを最大47%削減できるという。研究成果は2025年9月24日付けの学術誌Water Researchに掲載された。
グリーン水素の製造には通常、逆浸透膜などで処理した超純水が必要とされる。不純物が電気分解の効率を低下させるためだ。プリンストン大学のZ. Jason Ren教授の研究チームは、超純水の代わりに処理済み排水を使用できるかを検証した。
処理済み排水とは、下水処理場で処理され、帯水層への放流や灌漑、工業冷却に使用できる水準まで浄化された水を指す。過去にも排水を使った水素生成が試みられたが、短時間で性能が低下する問題があった。
博士課程のLin Du氏は、プロトン交換膜型水電解装置を使い、純水と処理済み排水の性能を比較した。電気化学的試験と高度な顕微鏡イメージングを組み合わせた結果、排水を使用した場合、システム性能が急速に低下することが確認された。
原因は、家庭用水道の蛇口やケトルにスケールを形成するカルシウムとマグネシウムのイオンだった。これらのイオンが膜に付着し、イオン輸送を阻害して多孔質の通路を固体の障壁に変えていた。
研究チームは硫酸で水を酸性化する方法で問題を解決した。酸性緩衝液が豊富なプロトン源として機能し、カルシウムやマグネシウムのイオンより優先的に作用する。これによりイオン伝導性が維持され、電流が持続し、連続的な水素生成が可能になった。研究チームの試算では、純水の代わりに処理済み排水を使用することで、水素生成のための水処理コストを約47%、そのエネルギーコストを約62%削減できる。
研究チームは現在、産業パートナーと協力して、このアプローチの大規模試験と、前処理した海水を使用する可能性を検証している。また昨年、米国内で水素施設と下水処理施設を併設する最適な場所を特定する研究も発表している。
論文: Electrolytic hydrogen production from acidified wastewater effluent
Princeton Engineering プレスリリース