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インスタリム、3Dプリンターで作る義足でウクライナ復興支援

画像出典元プレスリリース

3Dプリンターで義足を製造する技術を持つインスタリム(東京都墨田区)が、戦争で手足を失ったウクライナの人々を支援するプロジェクトに採択された。国際連合工業開発機関(UNIDO)が実施する復興プロジェクトの一環で、同社の3D義足製造技術をウクライナに移転する。あわせて、国際協力銀行(JBIC)などから約6000万円の資金調達も完了した。

同プロジェクトは、経済産業省の資金拠出のもとUNIDOが実施するもので、ウクライナにおける義足・義肢装具の生産能力強化と、それを通じた経済復興のフィージビリティ・スタディ(実現可能性調査)を目的としている。

ウクライナで深刻な義足不足が発生

ウクライナでのインスタリムによる支援活動の様子画像出典元プレスリリース

ウクライナでは2022年の戦争激化以降、戦禍による四肢切断者が急増している。米国ニュースによると、義肢装具利用者は推計約2万人にのぼり、2023年末までに約5万人が義肢装具を必要とする見込みとされている。

しかし、義足・義肢装具の製造現場では深刻な人材不足が発生している。ロイター通信によると、国内に約300名しかいない義肢装具士のうち、十分な機能を備えた高度な義肢を製作できるのはわずか5名にすぎない。また、国内の義肢装具製造を行うクリニック数も不足しており、患者数や求められる性能に対応し切れていない状況だという。

インドとフィリピンで実績のある3D義足ソリューションを導入

インスタリムは、インドおよびフィリピンで実績のある3Dプリント技術を活用した義足製造ソリューションを、ウクライナに技術移転・展開する計画だ。

同社は2019年からフィリピン、2022年からインドで3D義足事業を展開しており、すでに5,000本以上の3D義足等の提供実績を持つ。フィリピンではシェアNo.1を獲得し、インドでは世界最大規模の義足製造組織であるインド義足製造公社(ALIMCO)や、世界最大級の義足提供NGOであるジャイプールフット(BMVSS Jaipur Foot)に導入済みとなっている。

具体的には、キーウや西部リヴィウなどの主要都市において、同社の3DプリンタやAIを活用した義足設計ソフトなどの設備を導入し、フィリピン・インドで蓄積した技術とノウハウを活用して、ウクライナ人技術者・義肢装具士への研修プログラムを実施する。

さらに、ウクライナからの近隣の義足需要が満たされない国(東ヨーロッパ諸国や旧CIS諸国)への義足・義肢装具の輸出なども視野に入れた広域な事業環境調査も行う予定だ。

1年以上前からウクライナ復興に継続的に取り組み

ウクライナの義肢装具士にインスタリムの義足製造ソリューションを教育している様子画像出典元プレスリリース

インスタリムは今回のプロジェクト採択以前から、継続的にウクライナ復興支援に取り組んできた。

2023年4月には、ウクライナ紛争被害者に義足を届けるためのクラウドファンディングを開始し、まずは100本の義足を届ける活動を展開した。同社は2023年1月に実際にウクライナを訪れて現地の医療機関や義肢装具製作所への調査を行い、「私たちのデジタル義足製作技術でなら、ウクライナの市民により多くの義足を届けられる」との判断に至っている。

また、2024年3月には「日・ウクライナ経済復興推進会議」において、ウクライナ現地企業とのライセンス事業開始のための覚書(LOI)締結を発表するなど、段階的に支援体制を拡大してきた。

今回のプロジェクトでは、調査終了後に所定の条件を満たせば、同じく経産省の資金拠出のもとUNIDOによりパイロット技術実証へ進むことも可能となっている。同社は「ウクライナへの貢献を第一に考えながらも、このプロジェクトを通じた弊社ビジョンの実現についても、同時にかつ精力的に目指してまいります」とコメントしている。

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FabScene編集部

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