英マンチェスター大学の研究チームが、カタツムリの移動様式を模倣した微小ソフトロボットによる抗がん剤の体内投与システムの開発プロジェクトを立ち上げた。英国研究・イノベーション機構(UKRI)の学際的研究支援スキーム(CRCRM)から約100万ポンド(約2億1000万円)の資金提供を受け、2026年3月26日に発表した。
現在の抗がん剤投与は腫瘍部位への精密なターゲティングが難しく、患部以外への副作用が課題だ。このプロジェクトは、腫瘍組織内に自律的に定着して薬剤を放出するロボットを開発することで、投与された薬物が腫瘍に届く割合を高め、全身への毒性を大幅に低減することを目指す。主な対象は大腸がん(結腸直腸がん)治療だ。
航空宇宙工学のMostafa Nabawy氏(上級講師)が率いる研究チームが着目したのはカタツムリとナメクジの移動機構だ。カタツムリは足の筋肉が生み出すリズミカルな波と粘着性の粘液を組み合わせて、複雑な地形を慎重かつ確実に移動する。この仕組みをソフトロボットに移植することで、消化管内を精確に進む機構を実現する。
ロボット本体の素材には、分子レベルで調整可能なペプチドベースのバイオナノ材料を使用する。外部からの磁場など体に無害な刺激に応答して制御できるよう設計され、非侵襲的なリモートコントロールを可能にする。
プロジェクトではカタツムリの移動・粘液分泌・足の動きに関する高解像度の実験データを初めて体系的に収集し、機械学習による制御システムの構築と、バイオメカニクス・ロボット工学・がん生物学を統合したデジタルツインのシミュレーション基盤も構築する。このデジタル環境で設計を先行最適化することで、実物試作のコストと時間を削減できるという。
大腸がん以外にも、カプセル内視鏡の代替、環境・産業向けマイクロロボット、配管内検査、農食品システムへの応用が見込まれると研究チームは述べている。