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MIT、蓄電能力を10倍に向上させたコンクリート製スーパーキャパシタを開発

米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームは、コンクリートに電気を蓄えて放出できるスーパーキャパシタ「ec³」の蓄電能力を従来比10倍に向上させたと発表した。建物の壁や道路などのコンクリート構造物をエネルギー貯蔵システムとして活用できる可能性がある。

ec³(electron-conducting carbon concrete、イーシーキューブド)は、セメント、水、ナノスケールの微細なカーボンブラック、電解質を混合して作られる。コンクリート内部にナノレベルの導電性ネットワークを形成し、電気エネルギーの貯蔵と放出を可能にする。

研究チームは2025年10月1日、学術誌PNASに掲載した論文で、電解質と製造プロセスの最適化により、ec³スーパーキャパシタのエネルギー貯蔵容量を1桁向上させたと報告した。

2023年時点では、一般家庭の1日分の電力需要を満たすために約45立方メートルのec³が必要だった。今回の改良により、同じ電力量を約5立方メートル、一般的な地下室の壁に相当する体積で貯蔵できるようになった。

研究を主導したMIT EC³ Hub共同ディレクターで土木環境工学准教授のAdmir Masic氏は「コンクリートの持続可能性の鍵は、このエネルギー貯蔵、自己修復、炭素隔離といった機能を統合した『多機能コンクリート』の開発だ」と述べている。

性能向上は、ec³内部のナノカーボンネットワークの構造と電解質との相互作用についての理解を深めたことで実現した。研究チームは集束イオンビームを使用してec³材料の薄層を順次除去し、各層を走査型電子顕微鏡で高解像度撮影する手法(FIB-SEMトモグラフィー)により、導電性ナノネットワークを最高解像度で再構成した。

この分析により、ナノネットワークがec³の細孔を囲むフラクタル状の「網目」を形成していることが判明した。この構造により電解質が浸透し、システム全体に電流が流れる仕組みだ。

研究チームは複数の電解質とその濃度を試験し、エネルギー貯蔵密度への影響を調査した。第一著者でEC³ Hub研究員のDamian Stefaniuk氏は「ec³に使用可能な電解質の範囲は広い。海水も含まれるため、洋上風力発電の支持構造など沿岸や海洋用途に適した材料になる可能性がある」と説明している。

製造プロセスも改良された。従来はec³電極を硬化させてから電解質に浸す方法だったが、混合水に電解質を直接添加する方式に変更した。電解質の浸透が制約とならなくなったため、より厚い電極を成形でき、貯蔵エネルギー量が増加した。

最も高い性能を示したのは、消毒剤などに使用される第四級アンモニウム塩とアセトニトリル(産業用途で使われる透明な導電性液体)を組み合わせた有機電解質だった。この構成のec³は、1立方メートル(冷蔵庫程度の体積)あたり2キロワット時以上のエネルギーを貯蔵できる。これは実際の冷蔵庫を約1日間動作させるのに十分な量だ。

バッテリーの方がエネルギー密度は高いものの、ec³は原理的にスラブ、壁、ドーム、アーチなど幅広い建築要素に直接組み込むことができ、構造物と同じ寿命を持つ。

研究チームは古代ローマの建築からヒントを得て、ミニチュアのec³アーチを製作した。9ボルトで動作するこのアーチは、自重と追加荷重を支えながらLED照明を点灯させた。荷重が増加するとLEDが明滅する現象が観察され、応力が電気接触や電荷分布に影響を与える可能性が示された。Masic氏は「構造物にストレスがかかる時期や程度を示す信号として活用したり、リアルタイムで構造物の健全性を監視したりできる可能性がある」と述べている。

ec³技術は実用化に向けて前進している。既に熱伝導特性を活用して日本の札幌市で歩道スラブの加熱に使用されており、融雪剤の代替手段としての可能性を示している。

Stefaniuk氏は「エネルギー密度の向上と幅広い応用分野での価値実証により、持続的なエネルギー課題に対処できる強力で柔軟なツールを手に入れた。最大の動機の1つは再生可能エネルギーへの転換を支援することだ」と説明する。

EC³ Hub共同ディレクターで土木環境工学教授のFranz-Josef Ulm氏は「太陽光発電は効率面で大きく進歩したが、日照が十分な時にしか発電できない。夜間や曇天時のエネルギー需要をどう満たすかという課題には、エネルギーの貯蔵と放出が必要だ。通常はバッテリーを意味するが、希少または有害な材料に依存することが多い。ec³は実行可能な代替手段であり、建物やインフラがエネルギー貯蔵ニーズを満たせるようになる」と述べている。

研究チームは、電気自動車を充電できる駐車スペースや道路、完全なオフグリッド運用が可能な住宅などの応用を目指している。

論文の共著者でコーネル大学准教授のJames Weaver氏は「コンクリートという古代から続く材料に、まったく新しい機能を持たせることができた。現代のナノサイエンスと文明の古代の建材を組み合わせることで、私たちの生活を支えるだけでなく、電力を供給するインフラへの扉を開いている」と述べている。


関連情報

プレスリリース(MIT News)

論文(PNAS)

FabScene編集部

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