MITコンピューターサイエンス人工知能研究所(CSAIL)とハッソプラットナー研究所が、環境配慮型材料と高強度材料を戦略的に組み合わせる3Dプリンティング技術「SustainaPrint」を開発した。応力がかかる部分のみに強化材料を使用することで、環境負荷を軽減しながら構造強度を確保する。
3Dプリンティングの多くは石油由来プラスチックフィラメントを使用している。生分解性やリサイクル材料から作られた環境配慮型代替材料は存在するが、強度が劣り、応力下で脆性破壊しやすい課題がある。
SustainaPrintは有限要素解析シミュレーションを用いてモデルを分析し、物体が応力を受ける可能性が高い箇所を予測。該当箇所のみを強化材料で補強し、その他の部分は環境配慮型フィラメントで造形する。
研究チームのMaxine Perroni-Scharf氏(MIT博士課程学生、CSAIL研究員)は「材料品質や組成が異なる産業・分散製造環境での利用を想定している」と述べている。テスト用ツールキットにより利用可能フィラメントの信頼性を確保し、ソフトウェアの補強戦略により機能を犠牲にすることなく材料消費を削減できるとしている。
実験では環境配慮型フィラメントとしてPolymakerのPolyTerra PLA、補強材としてUltimakerの標準またはTough PLAを使用した。20%の補強閾値設定により、高性能プラスチック単体で印刷した物体の最大70%の強度を回復できた。
研究チームはリング、ビームなどの機械的形状から、ヘッドフォンスタンド、壁掛けフック、植木鉢まで数十の物体を印刷。各物体を環境配慮型フィラメントのみ、強化PLAのみ、SustainaPrintハイブリッド構成の3通りで造形し、引張、曲げ、破断テストで各構成の耐力を測定した。
多くのケースでハイブリッド印刷品は全強度版とほぼ同等の性能を示した。ドーム状形状のテストでは、ハイブリッド版がTough PLA単体版を上回る結果となった。研究チームは補強版の応力分散能力向上により、過度な剛性による脆性破壊を回避できた可能性を指摘している。
Perroni-Scharf氏は「特定の形状と荷重条件において、材料を戦略的に混合することで単一均質材料を上回る性能を得られる場合がある」と説明。3Dプリンティングでは層間接着やツールパス設計が予期しない方法で性能に影響することを示唆している。
SustainaPrintはユーザーがカスタムインターフェースに3Dモデルをアップロードし、固定領域と力が適用される箇所を選択する。ソフトウェアは有限要素解析を用いて応力下での物体変形をシミュレーション。構造内の圧力分布マップを作成し、圧縮や引張下の領域を強調表示。ヒューリスティクスを適用して物体を補強要・不要の2カテゴリーに分類する。
研究チームはDIYテスト用ツールキットも開発した。3Dプリント可能デバイスには引張・曲げ強度測定用モジュールを搭載。懸垂バーやデジタルスケールなどの一般的アイテムと組み合わせ、粗いが信頼性のある性能指標を取得できる。メーカーデータとのベンチマーク結果では、複数回リサイクルを経たフィラメントでも測定値が1標準偏差内に収まった。
現システムはデュアル押出プリンター向けだが、手動フィラメント交換と校正により単一押出設定への適応も可能と研究チームは考えている。現状では1回の力と1つの固定境界のみをサポートし、モデリングプロセスを簡素化している。
今後の展開として、より複雑で動的な荷重条件対応へのソフトウェア拡張を検討。AIを活用した形状からの用途推定により、力や境界の手動入力なしでの完全自動応力モデリングの可能性も検討している。