MITとスタンフォード大学の研究チームは、ツル植物の巻き付く動きからヒントを得たロボットグリッパーを開発した。スイカやガラス花瓶など重くて壊れやすい物を優しく持ち上げられるほか、大型版ではベッドから人を安全に持ち上げることもできる。研究成果は2025年12月10日付で学術誌Science Advancesに掲載された。
開発したグリッパーは、加圧されたボックスからツル状のチューブが靴下を裏返すように膨らみながら伸びる仕組みを持つ。チューブは対象物に巻き付いた後、元のボックスに向かって伸び続け、自動的にクランプで固定される。機械的にチューブを巻き上げることで、対象物をスリング(吊り具)のような柔らかい支持で持ち上げる。
従来のツル型ロボットは先端から伸びる「オープンループ」構造で、安全検査や捜索救助での活用が検討されてきた。研究チームはここに「クローズドループ」機構を追加し、チューブが対象物に巻き付いた後に元の位置に戻って固定できるようにした。MIT機械工学部博士課程のKentaro Barhydt氏は、物をつかむ動作には「位置決め」と「保持」という異なる段階があり、オープンとクローズドのループを切り替えることで両方の利点を活用できると説明する。
研究チームはベッドから人を持ち上げる大型システムと、市販のロボットアームに取り付ける小型版の2種類を製作した。小型版では、スイカやガラス花瓶、ケトルベル、金属棒の束、ボールなど重くて壊れやすい物を持ち上げられることを確認。散らかった箱の中から目的の物を引き出すこともできた。
MITのHarry Asada教授は、人体のような重くて壊れやすい物は現在のロボットハンドでは把持が困難だと指摘し、開発したグリッパーは対象物を優しく安全に吊り下げられると述べた。研究チームは農業収穫や重い貨物の積み下ろし、港湾や倉庫でのクレーン操作の自動化などへの応用を想定している。
介護現場での患者移乗は、介護者にとって身体的負担が大きい作業の一つとされる。従来の患者リフトでは、介護者が患者を横向きにしてシートを敷き込む必要があった。ツル型グリッパーであれば、ロボットが自ら患者の下に潜り込んでスリングを形成できる可能性がある。
研究はNational Science FoundationとFord Foundationの支援を受けた。