2枚のメッシュ生地を少しずらして重ねると、もとの生地にはない大きな干渉縞が浮かび上がる。この現象が「モアレ模様」だ。MITの物理学チームが今回発見したのは、同じ原理を原子レベルで実現した「モアレ結晶」が、電子を3次元ではなく4次元の空間にいるかのように振る舞わせるという現象だ。研究成果は2026年4月3日付のNatureに掲載された。
グラフェンのような原子1層分の薄さしかない2次元材料を2枚重ね、わずかにずらすか異なる格子間隔の材料と組み合わせると、元の層にはない大きな周期パターン(モアレ超格子)が生まれる。この素材の中では電子が特殊な振る舞いをすることが知られており、2018年にMITのグループが超電導性を発見して以来、世界中の研究室が注目してきた。
ただし従来のモアレ材料には大きな課題があった。スコッチテープで結晶から原子1層を剥がし、顕微鏡で見ながら1枚ずつ正確な角度で積み重ねる、という非常に手間のかかる手作業が必要で、研究サンプルを1個ずつしか作れなかった。今回Checkelsky氏らのチームは、化学合成によって各層に最初からモアレ超格子が組み込まれた「モアレ結晶」を一度に大量に育成する手法を開発した。研究チームはこれを「2枚の紙を重ねる」方法から「異なる行間のページが交互に並んだ百科事典を丸ごと育てる」方法への転換と表現している。
そしてこの結晶を大きな磁場の中に置いて電子の動きを測定したところ、予想外の現象が確認された。2つの格子が干渉し合うことで数学的に4次元の格子と等価な構造が生まれ、電子が3次元空間を動きながら同時に「仮想の4次元方向」にも移動しているかのように振る舞うのだ。実際に電子が4次元に飛び出しているわけではないが、量子力学的な振る舞いが4次元材料の理論予測と完全に一致する。
この発見がものづくりの観点で重要なのは、大量合成の実現と量子技術への応用可能性の2点だ。量子コンピュータや超電導デバイスの材料として、モアレ結晶は新しい候補になりうる。研究チームは「高次元の超電導体や導体に関する長年の理論予測を、実験室で実際に検証できるプラットフォームになる」と述べている。
論文はNature(DOI: 10.1038/s41586-026-10173-8)に掲載されている。