中国のJim Wong氏が開発した蚊撃退装置「Photon Matrix」が、クラウドファンディングサイトIndiegogoで資金調達を行っている。同デバイスは自動車の自動運転技術で使われるLiDARセンサーとレーザー技術を組み合わせ、飛行中の蚊を検出して瞬時に撃墜する仕組みだ。ベーシック版は468ドル、プロ版は629ドルで提供される予定で、最大毎秒30匹の蚊を処理できるとしている。
同装置は2つのレーザーシステムで構成される。まず、LiDAR(光検出・測距)モジュールがレーザーパルスを放射し、飛行物体からの反射光を測定することで蚊の位置、方向、体のサイズを3ミリ秒以内に特定する。続いて、ガルバノメーター制御の第2レーザーが標的に向けて致命的な光線を照射し、蚊を撃墜する。
飛行速度が毎秒1m以下、サイズが2~20mmの範囲内であれば蚊を効果的に識別・攻撃できる。ただし、ハエなど飛行速度の速い昆虫には基本的に効果がないとされている。
安全面では、ミリ波レーダーを使用して人間やペットなど大型の物体を検出し、それらが検知された場合はレーザーの発射を停止する機能を搭載している。開発者のWong氏は「安全認証要件をデザインに組み込んでいる」と主張しているが、具体的な安全基準や国際認証の詳細は明記されていない。
ベーシック版は90度の走査角度で3mの有効範囲を持ち、プロ版では6mまで拡張される。どちらのモデルも完全な暗闇でも動作し、電源はコンセントまたはオプションの充電式パワーバンクから供給される。パワーバンクによる連続動作時間は8~16時間とされている。
装置はIP68防水規格に対応し、屋内外での使用が可能だ。レーザー蚊撃退システムの概念自体は2007年に遡り、米戦略防衛構想(スターウォーズ計画)の設計者だった天体物理学者Lowell Wood氏がビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団のブレインストーミングセッションでマラリア撲滅の手段として提案したものだった。
その後、Intellectual Ventures社がプロトタイプを開発し、2017年にはTEDで実演も行われたが、人間の目に対する安全性の問題から実用化には至らなかった。当時のプロトタイプは携帯電話やレーザープリンターから調達した部品で構築され、特許も取得されていたが、同社は製品化よりも特許保有に重点を置いていた。
現在のPhoton Matrixは、光学技術とプロセッサーの進歩により、過去20年間で大幅に改良されたとしている。しかし、実際の安全性テストデータや企業情報は公開されておらず、Wong氏個人によるIndiegogoでの初回プロジェクトという点で、製品の信頼性について慎重な検討が必要とされる。
蚊レーザーシステムの応用分野は、マラリアやデング熱、ジカ熱などの蚊媒介感染症が深刻な地域での疾病予防から、リゾートホテルやプールエリアでの快適性向上まで幅広い。一方で、生態系への影響を懸念する声もある。蚊は昆虫食性の鳥類やコウモリ、トンボなどの重要な食料源となっており、無差別な殺虫が他の生物に与える影響についても議論が続いている。
計画小売価格はベーシック版が697ドル、プロ版が897ドルに設定されている。現在はまだ機能試作段階にあり、量産化への道のりには技術的・規制的な課題が残されている。