2006年11月に発売されたPlayStation 3(PS3)のシステムソフトウェア「バージョン4.93」が2026年3月18日に配信された。ソニーの公式ページに記されたアップデート内容は「動作の安定性を改善しました」の一文のみで、4.88から4.93まで実質同じ文言が続いている。
実態は地味だ。PS3はBlu-rayの再生にAACS暗号化キーを使用しており、このキーは12〜18カ月で失効するためシステムアップデートで更新が必要になる。なお2026年3月3日にはNetflixがPS3向けアプリのサポートを終了しており、20年目のゲーム機が節目を迎えつつあることを示す出来事が続いている。
このタイミングでPS3とPS5のスペックを改めて比べると、時代の変化が見えてくる。PS3のCPUはIBM製Cell Broadband Engine(3.2GHz)、GPUはRSX Reality Synthesizer(理論性能約1.8TFLOPS)、メモリはXDR RAM 256MBとGDDR3 256MBの合計512MBだった。PS5はAMD Zen 2の8コアCPU(最大3.5GHz可変)、RDNA 2 GPUで理論演算性能10.28TFLOPS、メモリ16GB GDDR6、825GBのカスタムNVMe SSDを搭載する。GPU性能だけで約6倍、ストレージ速度は従来比100倍以上の差がある。
しかし、そのPS3がかつてスーパーコンピューターの中核を担っていた時期がある。米空軍研究所(AFRL)が2010年12月に公開した「Condorクラスター」だ。1760台のPS3を並列接続したこのシステムは500TFLOPS(500兆回/秒)の演算性能を持ち、当時の米国防総省で最速のインタラクティブコンピューターだった。建造コストは約200万ドルで、同等の専用ハードウェアを使った場合の5〜10%に抑えられた。消費電力も同クラスのスパコンの10分の1。ニューヨーク州ローマに設置され、レーダー強化・衛星画像処理・AI研究に活用された。採用したのが廉価なPS3だったのは、当時のゲーム機が原価割れで販売されており、市場価格よりはるかに安くGPU演算能力を調達できたためだ。なお後継のスリムモデルはLinux起動に対応しなかったため、クラスターには初代モデルのみが使われた。
米ドラマ「Person of Interest(犯罪予知ユニット)」シーズン5(2016年)には、この話が巡り巡って登場する。AI「マシーン」を動かすために登場人物がPS3をラックに並べてスーパーコンピューターを構成するシーンだ。劇中のセリフにある「消費電力は10分の1、LinuxでOSを上書きできる」という説明は米空軍の発表をほぼそのまま引用している。さらにThe Vergeの調査によれば、そのロケに使われたPS3の実機は、退役したCondorクラスターの実物だったという。米軍の研究機器がドラマのセットに転用され、そこでAI同士の戦いを演じた——PS3の来歴を知った上で見ると、フィクションとノンフィクションの境界が溶けるような話だ。