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屋根上太陽光とEVバッテリーで日本の電力需要85%供給可能、東北大学などが研究成果発表

東北大学を中心とする国際共同研究チームが、日本全国の屋根上に太陽光発電パネルを設置し、電気自動車(EV)のバッテリーと組み合わせることで、国内電力需要の85%を供給できるとする研究結果を発表した。この「PV+EV」システムと呼ばれる仕組みにより、二酸化炭素(CO2)排出量を87%削減し、エネルギーコストも33%低減できる。山間部が多く大規模太陽光発電所の建設が困難な日本にとって、既存インフラを活用した現実的な脱炭素化への道筋を示す画期的な研究として注目される。

全国1741自治体を対象とした包括的分析

研究チームは東北大学、東京大学、国立環境研究所、オランダのラドバウド大学、気象研究所で構成され、日本全国1741すべての自治体を対象とした技術経済分析を実施した。分析では、屋根面積の70%に効率20%の太陽光パネルを設置し、40キロワット時(kWh)のバッテリーを搭載したEVが各世帯の蓄電設備として機能することを前提とした。EVバッテリーの約半分の容量を電力系統の安定化に活用する「Vehicle to Grid(V2G)」技術の普及も想定している。

研究の結果、屋根上太陽光発電システムだけで年間1,017テラワット時(TWh)の発電が可能であることが判明した。これは2022年の日本の総発電量を上回る規模である。屋根上太陽光のみのシステムでは自治体電力需要の45%を供給できるが、EVバッテリーによる蓄電機能を組み合わせることで供給率は85%まで向上する。この「SolarEV City」と名付けられた統合システムは、発電と蓄電の両面から地域の電力自給率を大幅に改善する可能性を示している。

全国1741市町村における電力自給率太陽光+EV連携シナリオの地理的分布
色が青に近いほど自給率が高く赤色に近いほど自給率が低いことを示す画像出典元東北大学プレスリリース

CO2削減と経済効果を両立

研究チームの試算によると、PV+EVシステムの導入により、電力部門と交通部門の両方でCO2排出量を87%削減できる。さらに、2030年までにエネルギーコストを33%削減する経済効果も期待される。これは、化石燃料への依存度低下による燃料費削減と、分散型電源による送電コスト抑制が主な要因となる。

地域別の特性も明らかになった。農村部では屋根上太陽光発電だけで電力需要の数倍の発電が可能な自治体もある一方、東京のような高密度都市部では屋根面積の制約により供給率は限定的となる。しかし、都市部でもEVバッテリーの活用により電力需要のピークカットや系統安定化に大きく貢献できることが示された。

政策支援と技術インフラ整備が課題

研究を主導した東北大学の小端拓郎准教授は「このシステムを実現し、より環境に優しい社会に向かうためには、最終的には政策支援が必要だ」とコメントしている。現在、日本政府はEVや屋根上太陽光発電に対する補助金制度を設けているが、研究結果を実現するには、双方向充電インフラ(V2HやV2G)、バッテリー統合技術、国民の理解促進に対するより強力な支援が必要だとしている。

特に太陽光発電の効率が低い北部地域では、エネルギー格差の拡大を防ぐための配慮が重要となる。研究チームは、地域差を考慮した政策立案の必要性を強調し、研究が政策決定者にとって重要な科学的根拠を提供するものだと位置づけている。

この研究成果は2025年5月15日、エネルギー分野の権威ある学術誌「Applied Energy」に掲載された。日本のエネルギー安全保障と脱炭素化を両立させる現実的な解決策として、今後の政策議論や技術開発に大きな影響を与えることが予想される。

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東北大学プレスリリース

FabScene編集部

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