次世代原子炉の実用化に向け、素材面での課題が一つ解消された。
ロシアの原子力大手Rosatom傘下の機械工学研究機関ЦНИИТМАШ(TsNIITMASH)は2026年2月25日、高速中性子炉「БР-1200(BR-1200)」の一次冷却系設備向けに、オーステナイト系耐熱鋼を開発したと発表した。
BR-1200は鉛を冷却材に使う高速中性子炉で、運転時の冷却材温度は500〜600℃に達する。これは現在広く使われているVVER型(水冷却型)炉の動作温度320〜350℃の約2倍に相当し、既存素材では対応が難しい環境だ。
今回開発した鋼材は、放射線耐性と耐食性を備えつつ、600℃までの熱安定性を確保した。さらに、液体金属冷却材環境で使われている基準鋼ЭП302(EP302)を長期強度の面で上回るとしている。研究を主導したTsNIITMASH素材科学研究所長のS. Logashov氏によると、開発にはコンピュータシミュレーションと液体金属冷却材の挙動に関する実績データが活用された。
あわせて、オーステナイト鋼とマルテンサイト・フェライト鋼を組み合わせたレーザー溶接技術も確立した。従来のアーク溶接と比べて溶接構造体の製造効率が大幅に向上するという。この技術はBR-1200の新設備だけでなく、既存のVVER型炉やRITM型炉(砕氷船などに使われる船舶用原子炉)への適用も見込まれている。
高速中性子炉が注目される理由の一つは、核燃料の利用効率にある。現行の軽水炉では、ウラン燃料のうち実際に核分裂反応に使われる割合はごくわずかにとどまる。これに対し高速中性子炉は、使用済み核燃料から取り出したプルトニウムを再利用する「閉じた核燃料サイクル」を成立させる基盤となる技術として、第4世代原子炉の有力候補とされている。
BR-1200は、ロシアが進める第4世代原子力発電プロジェクト「プロリーヴ(突破)」の中核を担う炉型。同プロジェクトは高速中性子炉を使った核燃料の完全循環利用を目指しており、BR-1200は現在ロシア・セヴェルスクで建設中の試験炉BREST-OD-300(熱出力300MW)の商用スケール版として位置づけられている。ロシアの計画では、第1号機の試験運転開始を2036年、第2号機の稼働を2038年としている。
冷却材に鉛を選択したのは、熱移送効率の高さと化学的安定性が理由だが、その分、構造材には高温・腐食環境に耐える特殊素材が不可欠だった。今回の素材開発と溶接技術の確立はこの課題に応えるもので、次世代炉の実用化に向けた具体的な一歩といえる。同様の高温耐食素材の研究は、航空エンジンや工業炉など幅広い分野にも波及しうる技術基盤でもある。