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服に話しかけて家電を操作、中国の大学が声で動くスマート布を開発

A-Textileを組み込んだ服を着て家電を操作する様子。音声コマンドでテレビや照明を操作できる。画像出典元:蘇州大学

中国・蘇州大学の研究チームが、声で操作できるスマート布地を開発した。この布地は「A-Textile」と名付けられ、普通の服に縫い込むだけで、ChatGPTなどのAIと会話したり、家電製品を操作したりできる。研究成果は2025年10月8日、科学誌Science Advancesに掲載された。

A-Textileの最大の特徴は、バッテリーや硬いセンサーを使わずに声を認識できることだ。布地そのものがマイクの役割を果たす。これまでもスマート衣料の研究はあったが、硬いセンサーやかさばるマイクが必要で、柔らかく快適な衣服には向いていなかった。

この布地は「摩擦帯電」という現象を利用している。布地の一部がこすれると、ごく小さな静電気が発生する。その静電気の変化を電気信号に変えることで、人の声を認識する仕組みだ。

研究チームは、布地の性能を高めるため特殊な構造を採用した。シリコンゴムの層に「SnS₂ナノフラワー」という花のような形をした小さな粒子を混ぜ、電気を集めやすくした。さらに、炭化した綿の布地を組み合わせることで、集めた電気を長時間蓄えられるようにした。この工夫により、最大21ボルトの出力電圧を実現し、従来の類似技術の1万倍以上の性能を達成した。

実験では、この布地は97.5%の精度で声のコマンドを認識できた。人の会話で使われる周波数(80~900ヘルツ)の音を幅広く拾うことができ、騒がしい環境でも正確に声を聞き取れる。さらに、洗濯しても性能が落ちず、9回洗った後でも安定して動作した。湿度90%の環境でも15ボルトの出力を維持し、1000回曲げても性能が変わらないことが確認されている。

研究チームは、この布地をAIと組み合わせることで、さまざまな使い方ができることを実証した。ディープラーニング(深層学習)というAI技術を使い、10種類の音声コマンドを93.5%から97.5%の精度で認識できるようにした。

実験では、服に縫い込んだA-Textileに「エアコンをつけて」「テレビをつけて」「照明をつけて」と話しかけるだけで、それぞれの家電を無線で操作できた。また、Google Mapsのようなスマートフォンのアプリも声で操作でき、「国立故宮博物院へナビゲーション」と話しかけるだけで目的地までの道順を表示できた。

さらに注目すべきは、ChatGPTとの連携だ。A-Textileに「ChatGPTって何?」「おいしいカクテルのレシピを教えて」と話しかけると、AIが答えを返してくれる。まるで服がAIアシスタントになったようだ。

研究を率いたYing-Chih Lai氏は「この技術により、日常の衣服が直感的な音声AIインターフェースに変わる」と語る。将来的には、消防士や救急隊員など、手が使えない状況で働く人々や、視覚や身体に障害を持つ人々にとって特に有用になると期待されている。

ただし、この技術が実用化されるには、まだいくつかの課題が残っている。現在は信号処理や判断を行う部品が服とは別に必要だ。研究チームは今後、信号処理回路やコンピューターシステムなどすべての部品を布地に組み込むことを目指している。

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FabScene編集部

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