東京大学大学院工学系研究科の高橋亮特任助教、川原圭博教授、染谷隆夫教授、横田知之准教授らの研究グループは、1回のフル充電で1カ月以上動作する超低電力な指輪型無線マウス「picoRing mouse」の開発に成功した。磁界バックスキャタ通信技術を採用することで、従来のBluetooth Low Energy(BLE)と比較して消費電力を約2%まで削減した。
ARグラスの普及により、仮想画面を通したインタラクションが屋内外で利用可能になってきたが、ARグラスだけでは仮想画面を見ることしかできない。そのため、指輪型入力デバイスなどのウェアラブル入力インターフェースが必要となる。しかし、従来の指輪型デバイスは物理的な制約から小型電池しか搭載できず、BLEを使用した場合でも5~10時間程度で電池切れを起こすという課題があった。
研究グループは、NFCなどで利用される磁界バックスキャタ通信技術に着想を得て、指輪型デバイスにマイクロワット級の無線通信技術を導入した。磁界バックスキャタ通信は、デバイス自身が電波を発信するのではなく、外部(今回はリストバンド)から送られてくる磁界を反射させることで情報を送る技術。交通系ICカードのように、カード自体は電池を持たずに読み取り機からの電波を利用して通信する仕組みと同様の原理となる。
従来の磁界バックスキャタ技術は通信距離が1~5cm程度と短いが、本研究では分散コンデンサを利用した高感度なコイルとバランスドブリッジ回路を組み合わせることで、通信距離を約2.1倍に延長。指輪とリストバンド間の12~14cmの距離でも信頼性の高い通信を実現した。
システムは、指輪からリストバンドへは磁界バックスキャタ通信を使い、リストバンドからARグラスへはBLEで中継する構成となっている。リストバンドからの送信電力が0.1mW程度と低い状況でも、外部の電磁ノイズに対して頑強な通信性能を発揮できる。
picoRing mouseは、磁気式トラックボール、マイコン、バラクタダイオード、コイルを組み合わせた負荷変調システムで実装されており、最大消費電力は449マイクロワットに抑えられている。これにより、頻繁な充電作業から解放され、ARグラスを日常的に使用する際の実用性が大幅に向上する。
研究成果は、2025年9月28日から10月1日に韓国で開催された「The 38th Annual ACM Symposium on User Interface Software and Technology(UIST2025)」で発表された。今後、ARグラスの操作性向上と普及に貢献することが期待される。
ごくわずかな電力で動く指輪型無線マウスの開発に成功 ―日常空間でARグラスを目立たず半永久的に扱うコントローラに向けて― | 東京大学