英国Bristol Grammar Schoolの16歳の生徒Jared K. Lepora氏が、LEGO MINDSTORMSの標準部品のみで人型ロボットハンドを製作した。父親でBristol大学のNathan F. Lepora氏の指導のもと開発された「Educational SoftHand-A」は、腱駆動方式と高度な劣駆動機構を採用し、研究用の3Dプリント製ハンドの約90%の把持力を発揮する。論文は2025年10月にarXivで公開された。
このロボットハンドは、イタリアのPisa/IIT SoftHandを教育用に再設計したもの。Pisa/IIT SoftHandは1個のモーターで全指の動きを同期させる高適応性の腱駆動ハンドとして知られる。Educational SoftHand-Aは、3Dプリント部品や金属ベアリングをLEGOの標準部品に置き換え、4本の指を持つ構造とした。
手の構造は全てLEGO部品で構成される。100個以上のプラスチック製ベアリング、ビーム、ロッド、ギアを使用し、2個のLEGO MINDSTORMS EV3 Large Servo Motorで駆動する。制御にはプログラマブルブリックを使用する。
各指には3つの回転関節があり、手全体で12自由度を持つ。駆動方式は拮抗腱機構(屈曲用と伸展用の2組の腱)を採用する。腱はクラッチギアを介して指の動きを同期させる「ソフトシナジー」機構で連結され、物体の形状に応じて各指が独立して適応する。クラッチギアは5Ncmのトルクで脱着する設計だ。
性能評価では、単一指の屈曲・伸展時間が約1秒、把持力が約1.8N、荷重耐性が5N、押す力が6Nという結果を示した。これは研究用の3DプリントSoftHand-Aの応答時間0.4~0.5秒、把持力2N、荷重耐性8N、押す力7Nと比較して、約90%の性能を達成している。
手全体の開閉時間は、閉じるのに0.98秒、開くのに1.12秒だった。研究用モデルは0.46秒と0.59秒のため、約2倍の時間を要するが、教育現場で使用するには十分な速度だ。
把持実験では、ボール、カップ、ペン、スマートフォンなど9種類の物体を適応的に把持できることを確認した。指は物体の形状に応じて自動的に姿勢を変える。
設計の最大の特徴は、家庭や学校で入手可能な標準部品と工具のみで再現できる点にある。設計ファイルと組み立て説明書はプロジェクトサイトで公開されており、他の学校でも製作できる。
論文では「ロボットハンドについて学ぶために、自分の手でロボットハンドを組み立てることは、この技術に取り組む特に適切な方法だ」と述べられている。LEGO MINDSTORMSは2022年に生産終了が発表されたが、このプロジェクトは教育用プラットフォームとしての遺産を示す事例となった。