東京大学大学院農学生命科学研究科のSylvain Grison博士課程学生と郭威准教授らの国際共同研究グループは2025年11月5日、動画AI(人工知能)を用いてミツバチのワグルダンス(8の字ダンス)を完全自動解析し、花資源の位置を地図化する新手法を開発したと発表した。
ワグルダンスは、ミツバチが餌資源の位置を仲間に伝える行動だ。腹部を左右に振りながら直線方向に進む「ワグル走行」と円運動を繰り返すことで構成され、ワグル走行の方向は餌資源の方位を、走行時間は距離を示している。これまでダンスの解析は熟練研究者による手作業で行われており、膨大な時間と労力を要することが最大の障壁となっていた。
研究チームは、深層学習技術を用いて自然環境下で撮影されたミツバチの活動動画からワグルダンスを自動検出し、その方向と継続時間から採餌資源の位置を推定するアルゴリズムを開発した。開発されたモデルは、動画の各フレームからダンス中の個体を識別し、体軸の角度と振動フェーズを抽出することで、餌資源までの距離と方向を高精度に解読する。AIが推定したダンスの角度および継続時間と、専門研究者による手動解析との比較結果では、決定係数(R²)が0.96以上となり、自然条件下においても高精度な解析が可能であることが実証された。従来では膨大な時間と労力を要していた解析が数分で実行可能となった。
研究チームはさらに、AIによって解読されたダンス情報を地図上に投影することで、ミツバチが利用する花資源の空間分布を「花資源地図」として可視化することに成功した。都市部においては、街路樹や公園の花木が重要な採餌資源となっていることが明らかとなり、一方で農地では作物の開花期に応じて利用資源が大きく変動することが示された。
世界で栽培されている主要食料作物の約75%は、ミツバチをはじめとする動物による送粉に依存している、あるいは送粉によって収量が向上することが報告されている。本成果により、都市緑化政策や農業における花資源の配置最適化、受粉サービスの可視化と効率化が可能となり、持続的な農業生産システムの構築に貢献することが期待される。また、気候変動による開花期の変動や花資源の減少に対しても、ミツバチの行動データを通じて早期に兆候を検出し、適応策を講じることが可能となる。
本研究はGoogleの「AI for Social Good Awards」プログラムの支援を受けて実施された。データセットとソースコードはGitHubで一般公開されている。研究成果は学術誌「Landscape Ecology」に掲載された。