光は通常まっすぐ進む。だが、ある条件下では渦を巻き、竜巻のような構造を取れる。ポーランド・ワルシャワ大学物理学部と軍事技術大学、フランス・クレルモン・オーヴェルニュ大学Institut Pascal CNRSの共同研究チームが、液晶材料の微小欠陥を利用してこの「光渦(光学渦)」を最低エネルギーの基底状態で初めて生成し、そこからレーザー発振させることに成功した。研究成果は2026年3月27日、学術誌「Science Advances」に掲載された。
光渦はドーナツ状に分布する強度パターンを持ち、光の軸周りに螺旋状に位相が回転する特殊な光の状態だ。量子通信や光コンピューティングで使える多重通信や情報エンコードへの応用が期待されているが、従来はバルクな光学系やナノ構造が必要で、小型化・集積化が難しかった。
研究チームが着目したのは液晶に生じる「トロン」と呼ばれる欠陥構造だ。液晶分子がDNAに似た螺旋を描き、その両端を繋いでドーナツ状にしたものがトロンで、光を閉じ込めるトラップとして機能する。次に、液晶の複屈折(光の偏光によって屈折率が変わる性質)が空間的に変化する効果を利用し、「合成磁場」を作り出した。実際の磁場ではないが、数学的な記述が磁場に似ており、光が電子のサイクロトロン軌道のように曲がる効果を生む。さらにトロンを光学マイクロキャビティ(鏡で光を往復させる共振器)に埋め込むことで効果を増幅し、外部電圧でトラップサイズや光の特性を調整できる。
最大の成果は、渦を持つ光(軌道角運動量を持つ光)が最低エネルギーの基底状態で生まれたことだ。従来、渦光はより高エネルギーの不安定な状態でしか現れなかった。基底状態は最も安定でエネルギーが蓄積しやすく、レーザー発振に適している。チームは実際に液晶染料を加えてレーザー発振を確認し、渦を持ちながらもコヒーレントで指向性の揃った光を得た。
液晶の自己組織化特性を利用するため、大型装置やナノ加工を必要とせず、集積化しやすい点が特長だ。将来の応用として光通信の多重化、量子コンピューティング、微小物体の光ピンセット操作などが想定される。現段階は基礎研究であり、実用デバイスへの組み込みには安定性・効率・製造プロセスの検証が必要だという。