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太陽の中心部より高温で動作するエンジンを開発 微粒子を電場で浮遊させ熱力学を探求

微粒子を電場で浮遊させるポールトラップの実験装置。画像出典元: キングス・カレッジ・ロンドン

英キングス・カレッジ・ロンドンの研究チームが、太陽の中心部よりも高温で動作するエンジンを開発した。微粒子を電場で浮遊させる「ポールトラップ」と呼ばれる装置を使用し、微小スケールにおける熱力学の法則を探求する。研究成果は2025年10月9日にPhysical Review Lettersに掲載された。

このエンジンは、低圧環境で電場を使って浮遊させた微小な粒子で構成される。ポールトラップと呼ばれるこの電気的なトラップ装置では、浮遊させている電極の1つにノイズ性の電圧を加えることで、捕捉された粒子の温度を指数関数的に上昇させることができる。

科学的な定義では、エンジンとはある形態のエネルギーを機械的エネルギーに変換する装置を指す。このエンジンでは、熱を運動に変換している。微小スケールでこれほど高温に到達させた実験は初めてだという。

研究チームは、実験結果が熱力学の基本法則と矛盾する場合があることを発見した。通常、高温にさらされるとシステムは加熱されるが、このエンジンでは冷却される場合があった。これは、周囲環境における熱ゆらぎのランダムな影響が、微小スケール特有の方法で動作に影響を与えるためだという。通常は検出できないほど小さなこの影響が、微小スケールでは無視できない影響を及ぼす。

論文の筆頭著者で、キングス・カレッジ・ロンドン物理学部の博士課程学生であるMolly Message氏は、エンジンとその内部で発生するエネルギー移動は、より広い宇宙の縮図であると説明している。蒸気機関の研究は熱力学という学問分野を生み出し、それが物理学の基本法則の一部を明らかにした。新しい領域へのエンジン研究の継続は、宇宙とその発展を駆動するプロセスに関する理解を拡大する可能性を提供すると述べている。

研究チームは、このプラットフォームをタンパク質の折り畳みを予測するアナログコンピューターとして使用できる可能性も期待している。アナログコンピューターは、モデル化しようとするシステムを物理的に直接シミュレーションする装置で、古代ギリシャの時代から存在している。

同大学ポスドク研究員のJonathan Pritchett氏は、タンパク質が体内のほとんどの重要なプロセスを動かすエンジンであり、その仕組みと不具合の理解は、疾患の理解と治療方法の開発に不可欠だと指摘している。

従来のデジタルモデルであるAlphaFoldに対する利点は簡便性にあるという。タンパク質はミリ秒単位で折り畳まれるが、それを構成する原子はナノ秒単位で動く。この時間スケールの違いがコンピューターによるモデル化を非常に困難にしている。微粒子の動きを観察し、それに基づいて一連の方程式を導き出すことで、この問題を完全に回避できるとしている。

チームはこの新しい方法が、デジタルコンピューターに依存する手法よりも少ないエネルギーで、より持続可能になる可能性も期待している。

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FabScene編集部

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