米ワシントン州立大学(WSU)の研究チームが、3Dプリントで製作した心臓の左側(心房、心室、僧帽弁)を再現し、実際に収縮と拍動を繰り返す動的モデルを開発した。研究成果は学術誌Advanced Materials Technologiesに掲載された。2026年3月4日にWSUが発表した。
心臓疾患は米国の死因第1位で、年間約80万人が心臓手術を受ける。僧帽弁の修復などの低侵襲手術は拍動する心臓に対して行うため、外科医には高度な訓練が求められる。従来の練習方法は動物の組織やカダバー(遺体)を使うもので、患者ごとの個別対応が難しく再利用もできなかった。鋳型で作る合成モデルも存在するが、心臓の複雑な曲面や動きを再現できない制約があった。
研究チームは実際の心臓のスキャンデータをもとに、軟質素材を使った3Dプリントで心臓の左側を造形した。3Dプリントの積層造形により、鋳型では再現が難しい複雑な曲面を持つ心腔を形にできた。心室壁にはMcKibbenアクチュエーター(空気圧で収縮するソフトロボティクス部品)を埋め込み、心室の収縮と僧帽弁の動きを模擬する。心室と僧帽弁を糸で接続して腱索(けんさく、心臓の弁を支える「ハートストリング」)を再現し、構造のリアリズムを高めた。
モデルには独自設計の柔軟な圧力センサーも組み込まれており、内部の圧力変化をリアルタイムで計測できる。研究チームはこのモデル上で僧帽弁逆流の修復手術を模擬し、超音波画像と圧力センサーの両方で修復の成功を確認した。
研究チームはすでに仮特許を出願しており、今後4つの心腔と4つの弁をすべて備えた完全な心臓モデルの開発を進める。将来は医療従事者や学生と連携し、患者ごとの術前シミュレーションへの活用を目指す。