魚は水中でじっとしているときでも、なぜ転倒することなく安定した姿勢を保てるのか。自然科学研究機構 基礎生物学研究所は2025年9月18日、ゼブラフィッシュを用いた実験でこの謎を解明したと発表した。魚は体が傾いた際に体をわずかに曲げることで、体内の浮き袋の位置を変化させ、姿勢を復元する力を生み出していることが判明した。
同研究は基礎生物学研究所の永岡良太大学院生、東島眞一教授、谷本昌志助教らが実施し、成果は2025年9月4日にiScience誌のオンライン版で発表された。
研究では、ゼブラフィッシュ成魚を独自開発の傾斜刺激装置に入れて左右方向への傾斜を与え、姿勢回復行動を観察した。その結果、成魚も仔魚と同様に、左右に体が傾くと上側になる体側へ体を曲げて姿勢回復することが確認された。
生物力学モデルを用いた解析により、胴体の屈曲によって浮き袋の体全体に対する相対位置が移動し、重力と浮力の作用軸がずれることで姿勢を戻すトルクが発生することが判明した。浮き袋は空気で満たされているため密度が極めて低く、この物理的性質が姿勢制御に重要な役割を果たしている。
実際に浮き袋の空気を抜く実験を行った結果、体の密度がほぼ一定になるため胴体を屈曲させても姿勢回復ができなくなることが確認された。また、胴体屈曲した姿勢で化学的に固定した魚標本でも、浮き袋が空気で満たされていれば姿勢を戻す力が働くことも実証された。
これらの結果から、魚は泳がなくても体を曲げるだけで姿勢を静的かつ微細に制御できる巧妙なシステムを持っていることが明らかになった。
研究グループは2023年に体長4mm程度の小さなゼブラフィッシュ仔魚で同様の姿勢制御メカニズムを発見していたが、体のサイズや泳ぎ方が大きく異なる成魚でも同じ仕組みが働くことが今回証明された。
この発見は浮き袋を持つ他の魚種でも同様のメカニズムが働く可能性を示唆しており、多くの魚類に共通する基本的な生存戦略として注目される。また、脊椎動物の平衡感覚や姿勢保持メカニズムの比較研究にも貴重な知見を提供し、将来的には水中ロボットの開発への応用も期待される。