ドイツの研究機関ZSW(バーデン・ヴュルテンベルク州太陽エネルギー・水素研究センター)は、電気自動車(EV)などに使われるリチウムイオン電池の容量を最大2.5倍に高めることを目指す研究プロジェクト「FACILE」を開始した。カギとなるのは、現在主流の黒鉛に代わる新素材「シリコン」と、それを支える柔軟な不織布だ。
現在のリチウムイオン電池には、電気を蓄える部品(負極)に黒鉛が使われている。シリコンは黒鉛の10倍以上の電気を蓄えられる素材として期待されているが、充電と放電を繰り返すと大きく膨らんだり縮んだりする性質がある。この膨張・収縮によって素材にひび割れが生じ、電池が劣化してしまうことが実用化の壁となっていた。
FACILEプロジェクトでは、シリコンを硬い金属箔ではなく、柔らかい繊維状の不織布の上に載せるという手法を採用した。マスクなどに使われる不織布のような柔軟な構造がシリコンの膨張・収縮を吸収し、ひび割れを防ぐ仕組みだ。
ZSWのMarkus Hölzle理事は「柔軟な不織布基板上にシリコンを載せることで、素材の大きな体積変化を補償できる。これにより高性能で長寿命、かつ持続可能な電池が実現する」とコメントした。
プロジェクトにはZSWのほか、コンスタンツ国際太陽エネルギー研究センター、不織布メーカーのPhoenix NonWoven、装置メーカーのcentrotherm internationalが参加している。バーデン・ヴュルテンベルク州が128万ユーロ(約2億円)を助成し、2025年7月から2027年6月までの2年間で研究を進める。
ZSWはすでに小型の試験用電池で検証を開始しており、今後はEV向けの大型バッテリーへとスケールアップする予定だ。同研究所は2014年から大型リチウムイオン電池の製造ラインを運用しており、量産技術の知見を持つ。