ビット・トレード・ワン、きびだんご、FabSceneの3社が共同で運営する「0/1 Club」の第2回イベントが、2026年7月29日に東京・池尻大橋のきびだんごオフィスで開催された。開発中のプロダクトを抱える4組が、それぞれ10分間のピッチに立った。
トップバッターは、徳島県神山町の神山まるごと高専に通う3年生2人のユニット「おもち」だ。若宮小芭音(わかみやこはね)氏と鈴木楓可(すずきふうか)氏が、この日のために徳島から上京した。2人は同校の学費を実質無償化しているスカラーシップパートナー11社のうち、リコーの奨学生として「RICOH ハードウェアスタートアップ人材育成プロジェクト」に参加している。
今期のプロジェクトで掲げた完了要件は、100万円以上売れると根拠を持って言えることと、自分で身銭を切って開発したいと思えることの2つだ。テーマに選んだのは癒しだった。全寮制の学校生活では、ペットも植物も持ち込めない。「みんな同い年の学生で、小さい子供もいない、猫もいない、植物もない。どこに癒やしがあるんだ、と」と2人は振り返る。そこで時間管理と癒しを掛け合わせた「nekoron」の開発に着手した。想定ユーザーは、一人暮らしでデスクワーク中心の20代から30代の働く大人に置く。
使い方は3段階だ。机に置いた本体をなでてタイマーをセットすると、経過時間に合わせて少しずつ傾いていく。60分に設定すれば15分後、30分後、45分後と姿勢が変わり、時間になるとぱたっと倒れて終了を知らせる。重心の移動には硬貨をおもりに使い、サーボモーターで動かす。
プロトタイプの検証履歴は、そのまま失敗の記録になっていた。第一プロトタイプは横方向の重心移動こそ成立したが、底面がすべて丸いのでさまざまな方向へ転がった。第三プロトタイプで電池とマイコンを下に収め、底面を平らにすると安定したものの、今度は自ら倒れない。倒れる面以外を平らにすると動きは安定したが、上にマイコンと電池を積んだため「絶対に起き上がらない」構造になった。第四プロトタイプで上部にも重心移動を追加すると、そもそも寝転ばなくなった。
現在は寝転ぶ動作までが動き、1つの重心移動で寝る・起きるを両立させるメカ設計が最大の壁になる。タイマー機能は未着手だ。当日の朝にマイコンを焼いてしまい、実機の動作は動画で紹介された。会場からは「重心が支持面の外に出ないと起き上がれない。勢いをつけるか、重心を外へ動かす機構が要る」「そこまでいくと倒立振子の制御の話になってくる」という指摘が出た。8月に製品テストを進め、9月5日と6日のMaker Faire Tokyo 2026へ出展し、10月にクラウドファンディングを始める計画だ。
2番目に登壇したのは、Universal Pine代表の船橋穂天氏。首から下げたネックレス型のAIデバイス「AIネックレス」を、その場で動かしてみせた。
出発点は3年前のChatGPT体験だった。かつてiPhoneを初めて手にしたときと同じ衝撃を受け、これは世界が変わると考えた。では、そのAIはどこに現れるのか。船橋氏がヒントにしたのはドラえもんのポケットの位置だ。秘密道具を両手で出すため、ポケットは右でも左でもなく腹のあたりにある。同じように考えると、文字を打つより話した方が早い以上、デバイスは口の近くが最も理にかなう。メガネ、イヤホン、ネックレスの3つを比べ、長い目で見てネックレスを選んだ。
ハードウェアもソフトウェアも経験はなかった。100人から200人に構想を話しても響かず、外注先も見つからない。「誰にも相手にされなかった」という状況から、自分でやるしかなくなった。
ハードウェアは家にあるものを片端から分解して学び、電子レンジとエアコン以外はほぼ開けたという。ソフトウェアは毎週アプリを作ってはApp Storeに公開し、反応がなければまた出すことを繰り返した。
2026年に入ってからのGitHubのコントリビューションは2667件に達している。あわせて深圳へ1週間、シリコンバレーへ10日間滞在した。2025年に紙粘土で作った最初の試作は1年で、USB Type-Cコネクターを備えた小型基板へと姿を変えた。
技術的な骨格として挙げたのは、LLMとFunction Calling、そしてMemoryの3つだ。Function Calling自体はスマートフォンやPCでも動く。ただし、いま目の前で何が起きていて自分がどこにいるかを記憶として取り込み、応答に反映させるには、ポケットの中でも大きなPCでもない場所にデバイスを置く必要がある、というのが同氏の見立てである。
デモでこの日の予定を尋ねると「18時30分に0/1 Clubで10分の登壇があったよ」と読み上げ、カメラで会場の人数を問うと「10人ぐらいの感じだよ」と答えた。メールの確認や返信、予定の変更、Webでの調べ物にも対応する。きびだんごの松崎良太氏は「AIデバイスは今も複数出てきているが、インタラクションができて、いろんなことをやってくれるデバイスはまだない」と評した。船橋氏は最後に、β版のテストユーザーを募集していると呼びかけた。
3番目は、大手電機メーカーでソフトウェア開発設計に携わりながら、同人ハードウェア活動を続ける「そーたメイ」氏だ。
ビット・トレード・ワンと協業したUSB→Bluetooth変換器「USB2BT」シリーズは、10年以上売れ続けている。個人活動の軸は2つある。定年まで第一線で働くには現業の組み込みLinuxだけでは生き残れない。定年後も第一線で働くにはJTC(日系の伝統的な大企業)の外で通用する開発スキルが要る。
本題は、2023年頃から取り組むカメラガジェットだ。核になるのはPTP(Picture Transfer Protocol)コマンドで、ソニーやキヤノンなどの一眼カメラがサポートする。ただしメーカー間の互換性はない。ドローンや医療・産業用機器でも使われ、リモート撮影、撮影済みファイルの転送、カメラ内のほぼすべての設定変更ができる。注意点は2つ。ライセンスは原則として法人向けのため、そーたメイ氏は個人事業主として取得している。もう1つが保証で、PTPコマンドでカメラを制御すると、ソニーとキヤノンの場合はメーカー保証の対象外になる。
これまでに手掛けたカメラガジェットとして、5点の作品を紹介した。1つ目が、2026年に発売した「ADSORC1 USB-C レリーズリモコン(ソニーカメラ用)」で、価格は8228円。カメラに触れずシャッターを切るためのリモコンで、ソニー純正「RM-VPR1」をUSB-C接続用に再設計した。α6700やα7C IIではマルチ端子が廃止され、リモートシャッターはBluetoothのみになったが、Bluetoothはタイムラグや接続の不安定さがあり長時間露光に向かない。有線ならLockスイッチでシャッターを保持でき、バルブ撮影に対応する。2つ目のQRコードリーダーはM5Stackのコンテスト2025で入賞。3つ目のFeliCaリーダーが事実上の第2弾で、社員証をかざすと社員番号が撮影した写真に写り込む。4つ目の「CrCmd.DPCC」は初のスマートフォンアプリ、5つ目は撮影コントロール用のタッチモニターだ。
課題は販路にある。撮影用途のサードパーティー市場は広そうだが、海外が強く国内は弱い。「同人ハードや自分で作るという市場が、そもそも存在しない」と話し、Maker Faire TokyoやNT東京に出展してもチャンネルが合わないと明かした。ビット・トレード・ワンの阿部行成氏は、USB2BTについて「売れていない月がない」と補足した。
最後に登壇したのは、DOT Pの金井隆晴氏。スライドより先に実機のデモから入った。
「PONKEY」(ポンキー)は、音に合わせてキーが物理的に飛び出す楽器ロボットだ。操作面は2段構成で、上段の16個が演奏用のPlay key、下段の8個が楽器パートを切り替えるPart keyになる。Part keyの半分は、打楽器を16ステップでループ再生する「Drum Machine」モードに割り当てられている。残る半分はベースやリード、弦楽器、ハープの音を持つ「Poppin Pad」モードで、キーを押すとリアルタイムに音が鳴ってボタンが飛び出す。1分の説明で小学生でも遊び方が分かる設計を目指したという。
機構の肝は、独自に製作した電磁石のユニットにある。アルミパイプとネオジム磁石の組み合わせで、キーは磁石で浮いているだけのため、押さえ込んでも軸に負荷がかからない。「壊れないというのがすごく大事なポイントで、ラフに使っても安心して使えるものを目指している」と金井氏は説明した。素材の選定には2年ほどかかり、別の素材のパイプにするとバウンドが激しい動きになる。
ルーツは15年前にさかのぼる。金井氏らが2011年から2013年にかけて首都大学東京(現・東京都立大学)の串山・馬場研究室で開発した触覚呈示インタフェース「PocoPoco」は、ソレノイドアクチュエーターを内蔵した円柱状のユニット16個を並べ、押す・つかむ・回す動作で音を操作するデバイスだった。PONKEYはその社会実装にあたる。
とくに力を入れているのが専用Webアプリとの連携だ。Bluetoothで接続し、複数台のBPMをそろえるSYNC、LogicやAbletonとMIDI連携するTRANCE、AIと音で交互に対話するDIALOGUE、GoogleのAIであるMagentaとデュエットするDUETなど5機能を備える。金井氏は週末に子ども向けのファブスペース運営に携わっており、子どもがAIに向けて使える言語が単語止まりになる状況に問題意識を持つ。
「ノンバーバルでもAIとコミュニケーションが取れて、物理的な場所で音楽セッションができるといい」と考えている。
開発は昨年、創業支援プログラム「FFF Tokyo」の助成を受けて始まった。2026年3月には米テキサス州オースティンのSXSWに出展している。現在は手作りで1日1台のペースだ。販売開始は2027年を予定し、希望小売価格は5万円と置く。
※0/1 Clubでは自分の「作品」を「製品」として世に出したいMakerを随時募集しています。
興味のある方は0/1 Clubの公式サイトからご連絡ください。