2026年3月20日(金・祝)に日米同時公開された映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』は、アンディ・ウィアーのベストセラーSF小説を原作に、ライアン・ゴズリング主演で実写化されたSF大作。記憶を失った状態で宇宙船で目覚めた男が、科学の力と「絆」を武器に、危機に瀕した地球を救うため奮闘する冒険活劇です。
筆者は原作未読のまま、「どうやらメチャ面白いらしい」という噂だけを頼りに封切日の劇場へ。結果は……大満足!壮大な宇宙モノなのに湿っぽくなく、キャラクターの軽妙な掛け合いとSF要素に胸を躍らせ、気づけば幸せで温かい気持ちに満たされました。あまりの多幸感に、鑑賞後数日は思い出すだけでニッコニコの状態で過ごしています。
(注意:ここから先、映画の内容に関する記述があります)
余韻に浸りながらXのタイムラインを眺めていた時のこと。映画の公式アカウントから、メイカーなら二度見するような投稿が飛び込んできました。
なんと、劇中に登場するプロップ(小道具)の公式3Dモデルデータが無料配布されているとのこと!「これは出力するしかない」と、導かれるように公式サイトへ。そこには独特な存在感を放つ「3D MODEL DOWNLOAD NOW」の文字が輝いていました。
配布されていたのは、誰もが心奪われるであろう異星の相棒・ロッキーが、主人公グレースとのコミュニケーションのために作り上げた、グレースを模した小さな人形です。
劇中ではロッキーたちが操る未知の素材「キセノナイト(Xenonite)」で形作られています。残念ながら現代の地球にキセノナイトは存在しませんが、私たちには3Dプリンターと樹脂があります。令和のメイカーとして、積層造形で追いつくことにしましょう。
ダウンロードしたファイルには、サポートあり・なしのSTLデータに加え、出力設定などを解説したPDFが含まれていました。中空構造が多いため、本来は光造形での製造が向いていそうですが、今回はあえて、家庭用3Dプリンターで一般的なFFF方式での出力に挑戦。追加のサポートはナシとして、どこまでいけるか「ゴリ押し」してみることに。
およそ2時間半ほどで出力が完了しました。……楽しい、楽しすぎる!細かな中空部分には少しダレや欠けも見られましたが、手に持って楽しむ分には十分すぎるクオリティです。
今回は単色のブラックと、光沢のあるグリーン系のPLAの2種類で出力してみました。特に後者のメタリックな質感は、見る方向によって表情が変わり、劇中の「キセノナイト」の雰囲気に近い仕上がりとなりました。
再びSNSを覗くと、映画を観たファンであり、かつ3Dプリント愛好家でもある人たちの作例が溢れています(この2つの層、かなり重なっている気もする)。自分たちの作った「リトル・グレース」をぶら下げて見せ合うような、新しいファンカルチャーが生まれるかもしれません。
劇中のプロップが実際にどう作られたのかは不明ですが、高品質な3Dプリント製であってもおかしくはありません。未知の物質「キセノナイト」の輝きを表現するために、制作現場ではどのような工夫がなされたのか。手元の造形物を眺めていると、そんな想像もふくらんでいきます。
3Dプリンターという道具は、まさにSFを体現する存在だと改めて感じさせられました。劇中のヘイル・メアリー号内にも、サブミリ3Dプリンターが設置されているという設定があります。自分が今、映画の中にいるような、あるいは映画と同じ現実を生きているような。3Dプリントを通じて、そんな稀有な没入体験が味わえるはずです。
3Dプリンターが普及して以来、SF作品のデジタルデータを公式が公開したり、ファンが活用したりする試みは数多く行われてきました。
たとえば、Amazon Prime Videoなどで配信されたSFドラマ『エクスパンス —巨獣めざめる—』。制作局のSYFYは3Dデータ共有サイト「Thingiverse」に公式アカウントを開設しており、劇中に登場する宇宙船「ロシナンテ号」などのデータを今なお公開し続けています。
世界中のメイカーたちも、独自の解釈で劇中アイテムを再現しています。なかでも、チャンネル登録者数120万人を誇るTolga Özuygur氏の活動は圧巻です。彼は3Dプリントと電子工作を組み合わせ、劇中ガジェットを動きと共に再現するスペシャリスト。アイアンマンの全身スーツを筆頭に、その熱量とクオリティには目を見張るものがあります。
作品の二次創作においては、データの取り扱いや収益化に細心の注意が必要ですが、なかには公式が積極的なガイドラインを提示している事例もあります。
ゲームから映像作品へと世界を広げた『サイバーパンク2077』では、公式が詳細なコスプレガイドとして、武器やサイバーウェアの高精度なルックや3Dデータを公開しています。キャラクターの細部まで解説されたガイドラインや活用ルールの明示は、ファンが作品世界をより深く楽しむための、新しい関係性を築く一助となっています。
ネット上には多くのファンメイド・データが溢れていますが、権利元によるオフィシャルなデータは、実はそれほど多くありません。過去には『ホビット』や『パシフィック・リム』といった大作映画でも3Dデータが公開されていたようですが、現在は公式リンクに辿りつけず。プロモーションとしての側面も強いため、3Dデータが「いつでも手に入る」とは思わない方が良さそうです。
『プロジェクト・ヘイル・メアリー』という超大作が公開され、なおかつ劇中とつながる3Dデータが公式から手に入る。こんなチャンスは滅多にありません。
この機を逃さず、今すぐ劇場へ!
そして今すぐ3Dプリントを!
「急げ!急げ!急げ!」
1984年に登場したAmstr…