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スイッチサイエンス年間売上ベスト100を読み解く――M5、ラズパイ、Arduino、AIの2025年

スイッチサイエンスの牧井佑樹氏(左)と安井良允氏(右)、写真提供:スイッチサイエンス

電子部品の老舗ECサイト「スイッチサイエンス」の年間売上ランキングを見れば、日本の電子工作シーンがどこに向かっているかが見えてくる。2024年11月から2025年10月までの売上ベスト100には、7年目を迎えてなお1位に君臨するM5Stack Basic、2年かけて世代交代を果たしたArduino、シリコンから自社開発するRaspberry Piの戦略、そして用途の細分化で広がるAI関連製品の選択肢。そういった時代の変化が映し出されていた。

同社で仕入れやイベント出展を担当する安井良允氏と、ネットショップ店長の牧井佑樹氏に、ランキングの裏側にある各ブランドへの思い入れと、中の人だからこそ語れる市場の肌感覚を聞いた。

出荷数×価格で見えてくる市場の実像

スイッチサイエンスの年間売上ベスト100。クリックすると画像が拡大します(スイッチサイエンス提供のデータを基に編集部が作成)

――まず、このランキングの集計方法を教えてください。

安井 2024年11月から2025年10月末までの1年間に出荷した数量と、2025年10月末時点での税込販売価格を掛け合わせた数字を「売上」として、上位100製品をランキングしたものです。期間中に価格変更があった製品もありますが、集計時点の価格で統一しています。

――製品単位での集計なので、同じシリーズでもバージョン違いは別カウントになるわけですね。

安井 そうです。たとえばM5Stack Core2には「v1.1」と「無印」があり、本来は合算すべきものですが、それを始めると収拾がつかなくなるので分けたままにしています。

6年売れ続けるBasic、レガシーに最新LLMを重ねる設計思想

――今年の1位はM5Stack Basic V2.7でした。

安井 M5Stack Basicは2018年の発売以来、当社でずっとロングセラーを続けている製品です。バージョンは2.7まで上がっていますが、基本的なコンセプトは初代から変わっていません。ESPRESSIFのESP32を搭載したマイコンボードで、2インチ程度の液晶画面と3つの物理ボタン、そしてモジュールを縦に重ねて拡張できる「スタック」構造が特徴です。

牧井 去年は2位、一昨年は9位でした。一昨年が低めだったのはV2.6からV2.7への切り替え時期と重なったためで、両者を合算すれば常に上位にいます。

――3位のCore2 v1.1はタッチパネル搭載モデルですが、物理ボタンのBasicのほうが売れているのですね。

安井 タッチパネルは直感的で便利ですが、物理ボタンには「確実に押せる」「何をすればいいか一目でわかる」という価値があります。用途によってはそちらのほうが重要なのだと思います。価格もBasicのほうが抑えられていますし。

牧井 当社でのM5Stack製品をカテゴリ別に集計してみたところ、出荷数ベースでもっとも多いのはBasicやCore2といったCoreシリーズでした。次がAtomシリーズ、その次がStick Cシリーズです。売上だけでなく数量でもCoreシリーズが主流という傾向は、去年と変わっていません。

――19位にはM5Stack Tab5が入っています。5インチ画面という、これまでにないサイズ感ですね。

安井 Tab5は2025年5月発売なので、実質半年分の売上でこの順位です。ESP32 P4という画面出力に強いチップを採用し、通信用に別途ESP32-C6を搭載するという凝った構成になっています。Maker Faire Tokyoでは、Tab5を表示器として使っている作品をいくつも見かけました。

牧井 5インチサイズで取り回しがよく、大型バッテリーを接続するとスタンドのように立てて使える。そういう使い方をしている方もいました。

安井 Tab5には本体にバッテリーが内蔵されていません。カメラ用の汎用バッテリーを挿して使う設計です。海外版ではバッテリー同梱モデルも販売されていますが、日本ではPSE(電気用品安全法)の関係で、当社ではバッテリー非同梱版を販売しています。

牧井 互換バッテリー自体は国内でも入手できますし、使い勝手は悪くありません。ただ、法規制に対応した形で製品を揃えるのは、日本市場ならではの手間ですね。

――11位のM5Stamp Flyは去年219位から大躍進しています。

牧井 関連して20位にM5Atom Joystickが入っています。Stamp Flyのコントローラーとしても使えるもので、セットで購入される方が多いようです。

安井 Stamp Flyは日本のユーザーや大学の先生方と協力して開発した製品です。正直なところ、M5Stack社だけではドローンを飛ばすノウハウが十分になく、試作段階では私たちでさえ飛ばせないバージョンがありました。機体設計のプロの知見を得て、ようやく製品として成立したという経緯があります。

――39位にはLLMモジュールキットも入っています。

牧井 ローカルでLLM(大規模言語モデル)を動かすためのモジュールです。インターネットに接続せずに対話ボットを作るといった用途に使えます。M5Stackの開発環境であるUiFlowおよびArduino用のライブラリを備えたStackFlowというAIプラットフォームで動かせるので、Makerには扱いやすい設計になっています。

安井 2018年から売り続けているBasicに、後から最新のLLMモジュールを追加できる。レガシーと最新技術を組み合わせられるのがM5Stackの設計思想であり、強みだと思います。

――79位の温湿度気圧センサユニットは販売終了になるそうですね。

安井 M5Stack用ユニットの中でもっとも売れていた製品ですが、残念ながら終売となります。搭載しているボッシュのBMP280という気圧センサが生産中止になり、部品の入手コストが跳ね上がったためです。

牧井 大手の電子部品サイトを見ても「生産中止品」と表示されていて、流通在庫しか手に入らない状況です。BMP280を搭載している他の製品も複数、同時に終売になりました。本製品はバージョン4ですが、他のセンサを使ったバージョン3は継続して販売していくので、そちらを使っていただければ同様のことはできます。

安井 80位にはCO2センサユニットも入っています。M5Stackの画面に温度やCO2濃度をそのまま表示できるので、環境モニタリングの入門としては定番です。搭載しているSCD40というセンサも業界ではメジャーなものですね。

唯一の8ビットマイコン、変わらないことの価値

――29位にArduino Uno R4 WiFi、30位にArduino Uno R3が並んでいます。

牧井 R4の発売は2023年で、2年半ほど経ちました。去年はR3の売上に何とか並んだ程度でしたが、今年は完全に逆転したという感覚です。

安井 キット類を含めたR3系とR4系の比較でも、今年はR4のほうが1.5倍程度多く出ています。「これから始めるならR4」という認識がようやく広まったのかなと。

牧井 R3は発売から10年以上経つ製品で、トップ100に入っている中で唯一の8ビットマイコンです。教育現場での採用実績が豊富で、教科書や作例も山ほどある。変わらないことへの信頼感が、根強い需要につながっています。

安井 ちなみにR3はUSB-Bコネクタ、R4はUSB-Cです。ケーブルの入手しやすさという点でも、いずれR4への移行は進むでしょう。

――Arduino Nesso N1についてはいかがですか。

牧井 2025年11月にM5Stackとの協業で発売された製品です。見た目はM5StickCに似ていますが、Arduinoのブランドから発売されました。Qualcommと組んでAIに特化したUno Qとは別路線で、こちらはLoRa通信に対応している点がユニークです。

安井 M5Stackとの協業によって新しいハードウェアの方向性を模索している印象です。Arduinoにとっては久しぶりの大きな動きだと感じています。

――34位にはmicro:bitが入っていますね。教育向けマイコンボードとしては定番です。

牧井 micro:bitはイギリスのBBCが教育用に開発したもので、日本でも小中学生向けのプログラミング教育で採用が進んでいます。教育向けの教材とセットで広めていることもあり、学校やお教室の先生方にも支持されやすいのかと思います。

安井 ただ、コネクタがUSB micro-Bなんですよね。ArduinoのR3も同様ですが、USB-Cが主流になった今、ケーブルを別途用意しないといけないのは少し不便になってきました。

「石から作る」という異端の戦略

――2位はRaspberry Pi 5の8GBモデルです。

牧井 去年1位でしたが、今年は2位に。発売直後の勢いが落ち着いたというのが正直なところです。ただ、4位のスターターキット(8GB版)は去年44位から大幅に上昇しています。

安井 キット類を足し合わせると、実質的には2025年で一番売れていることになります。とくにスターターキットやコンプリートキットが伸びているのは、教育機関や企業がまとめて購入しているから。「これからPi 5で始めましょう」という流れが定着してきた証拠です。

牧井 スターターキットを買われるのは、20人、30人に一斉に始めさせたいときです。「この人はACアダプターがない」「この人はHDMIケーブルがない」といったバラつきを防ぎたい先生や、企業の担当者が購入されています。Pi 4のスターターキットは去年19位から41位に下がり、Pi 5のスターターキットが44位から4位に上がった。入れ替わりがはっきり見えます。

牧井 一方で6位にはPi 4の4GBが残っています。Pi 5は高性能ですが発売当初は発熱も大きく、ファンが必須になりました。用途が決まっていて安定動作しているなら、わざわざ発熱の大きいPi 5に替える理由がない。そういう棲み分けが生まれています。

――Pi 5専用の電源アダプターも16位に入っていますね。

安井 Pi 4までは5V 3AでPD非対応の電源でも動きましたが、Pi 5は5V 5Aが必要で、一般的なPD電源では対応できないケースがあります。私たちが独自に作った電源アダプターが売れているのは、そういう事情です。

――31位にRaspberry Pi 500が初登場しています。

牧井 キーボード一体型のRaspberry Piで、Pi 400の後継です。Pi 400は最近あまり売れていなかったので正直どうかなと思っていましたが、Pi 500は好調です。巨大なキーボードが放熱板の役割を果たすのでファンが不要になり、静音で使えるのがメリットです。

安井 最近発表されたPi 500+(プラス)はメモリが16GBに増え、SSDも内蔵、しかもメカニカルキーボード仕様です。青軸でカチカチ音がするうえに光ります。ゲーミングPCのような方向性で、正直一瞬ラズパイらしくないなと思いましたが、本国のスタッフやXの反応では意外とウケているのかな、と。

――Raspberry Pi Picoシリーズについてはいかがですか。

牧井 Picoは2021年発売のマイコンボードで、Pi財団が独自開発したRP2040チップを搭載しています。Arduinoと比較されることが多いですが、価格面の手頃感もあり出荷数ではArduinoより多く出ています。

安井 Pico 2が2024年に出て、世代交代のスピードはArduinoより速いです。Arduinoは2年かけてR3からR4への移行が進みましたが、Picoは1年でPico 2が主流になりました。レガシーがないぶん、切り替えも早い。

牧井 ただ、M5Stackと比べるとホビーでの採用例はまだ少ない印象です。PIOなどPico独自の機能を活かした作例は増えていますが、入門者にとっての間口の広さではM5Stackに軍配が上がります。

安井 でも、Picoでしかできないことがあるから選ばれている面もあります。PIOはプログラマブルI/Oの略で、GPIOの動作を細かく制御できる機能です。ハードウェア寄りの開発者にも注目されている機能ですね。

――Raspberry Pi財団がチップを自社開発しているのは珍しいですよね。

安井 そこがラズパイのすごいところです。普通、マイコンボードを作ろうと思ったら既存のチップを載せます。でもラズパイはシリコンから作って、ロゴを表示しています。製品を分解すると「ラズパイシリコンが載っているな」とすぐわかるんです。

牧井 例えばArduinoはシリコンから自社開発しているわけではないので、Arduinoで試作を進めていたとしても、最終的にチップだけを採用した場合にArduinoの功績が見えづらいんですよね。ラズパイはPicoを出したことでシリコン事業を確立し、それがPi 5などの本体にもフィードバックされている。戦略として非常にうまいと思います。

40万円の商品が8位に入る時代、AI開発の選択肢は広がった

――8位にJetson AGX Orin 64GB開発者キットが入っています。40万円超の製品がこの順位にいるのは驚きです。

牧井 AIの研究開発で「とにかく何でもできる最上位モデルが欲しい」というニーズは根強くあります。LLMも動くし、空間把握もできるし、画像認識もできる。金額は張りますが、この1台で一通り検証できるという安心感があります。

――18位のJetson Orin Nano Superは価格が大幅に下がりましたね。

牧井 44位のJetson Orin Nano開発者キットとほぼ同じハードウェアですが、ファームウェアの更新で性能が向上し、価格は約半分になりました。NVIDIAとしては、高価格がネックで開発者が離れていたのを取り戻しに来た印象です。

安井 以前のJetson Nanoは3万円程度で、入門者にも手が届く価格でした。それが後継機で10万円近くに跳ね上がり、「ちょっと試してみよう」という層が減ってしまった。Superの価格設定はその反省でしょう。

――reComputerシリーズも複数ランクインしていますね。

牧井 Seeed Studioが開発しているJetson搭載の産業用コンピュータです。Jetsonを筐体に入れ、各種コネクタを出した状態で出荷されるので、そのまま業務用途に使えます。Seeed StudioはNVIDIAのエリートパートナーなので、Jetsonとの親和性が高い。

安井 reComputerでランキングに入っているのはJ4シリーズ(Jetson Orinを搭載した新世代)のもののみです。一方で旧世代のJetson Nanoを搭載している製品もランキングには見受けられます。旧世代で開発されたプロジェクトはそのまま継続している一方で、新規案件はOrinシリーズに移行している印象です。

――13位にRaspberry Pi AI HAT+、28位にAI Cameraが入っています。

牧井 AI HAT+はPi 5に装着してAI推論を高速化する拡張ボード、AI CameraはソニーのIMX500チップを搭載したAIカメラです。IMX500自体にAIが搭載されているので、ラズパイ全体としてAI関連の提案ができる選択肢が増えましたね。

安井 Jetson一択だったAI開発に、ラズパイやM5Stackという選択肢が加わってきた。数年前は「AIをやるなら高いJetsonを買うしかない」でしたが、いまは用途に応じて選べるようになっています。

――86位には通常のRaspberry Piカメラモジュールも入っています。AIカメラとの違いは何でしょうか。

牧井 通常のカメラは画像を撮ることが目的ですが、AIカメラは逆に「画像を撮りたくない」というニーズに応えるものです。欲しいのは人数や属性といった情報であって、実際の映像ではない。

安井 画像を保存するとプライバシーやセキュリティの問題が発生します。ヨーロッパのスマートシティではそのあたりの規制が厳しく、「情報だけ取れればいい」というニーズが強いと聞いています。日本でもコンビニなどで、店頭を通る人の属性分析にAIカメラが使われるようになるかもしれませんね。

Kinect難民を救った中国メーカー、猫型配膳ロボットの目も作る

――17位と27位にORRBEC(オルベック)の深度カメラが入っています。

牧井 Femto BoltとFemto Megaです。どちらも今年取り扱いを始めた製品で、Microsoftが「Kinectの後継」として公式に推奨しています。MicrosoftからのエンドースメントがついているKinect難民の救済策という位置づけです。

安井 オルベックは中国のメーカーで、深度カメラを幅広くラインナップしています。Kinectがなくなった後、開発者はIntelのRealSenseを使ったり、他社製品を試したりしていましたが、ようやく公式の後継製品が出てきた格好です。

牧井 17位のFemto Boltがカメラ単体、27位のFemto Megaはシングルボードコンピュータ(Jetson Nano)を内蔵したモデルです。Megaのほうが高価ですが、処理系も込みで欲しい方には便利です。

安井 ファミリーレストランで見かける猫型配膳ロボットにも、同社のAstraシリーズというカメラが採用されていると聞いています。生活に密着したところで使われている実績があるのは安心材料ですね。

――myCobotシリーズも21位と24位に入っていますね。

牧井 Elephant Robotics社のロボットアームで、リビングやキッチンで使うことを想定した「人間に近いところで使うロボットアーム」というコンセプトです。コントローラーにM5StackやRaspberry Piを使えるので、日本のMakerには扱いやすい。

――47位と50位にはLuxonisのOAK-D S2が入っています。

牧井 固定焦点版と自動焦点版の2種類です。カメラ自体が動くか、被写体が動くかで選び分けます。どちらもDepth AIカメラとして深度情報を取得できる製品で、オルベックとは別のアプローチで深度カメラ市場を攻めています。

安井 87位にはOAK-D Pro PoEという上位モデルも入っています。低照度や認識しにくい素材でも深度が取れるプロユース向け製品で、PoE対応のモデルが一番売れています。個人が趣味で買うような価格帯ではないので、産業用途で採用が進んでいるのだと思います。

地球の自転がわかるセンサー、精度が高すぎて話題に

――26位にSPRESENSEのマルチIMUアドオンボードが入っています。

安井 制度はそこそこの民生向け加速度センサーを複数束ねることで、通常なら数十万円する精度の慣性計測を実現している製品です。地球の自転がわかるレベルと言われています。

牧井 精度が高すぎて外為法の規制対象になり得るため、輸出時の注意書きを追加したところ、ちょっと話題になりましたね。

安井 SPRESENSEのメインボードは今年35位にいて、去年の41位から上昇しています。2018年発売なのに順位を上げているのは珍しく、マルチIMUボードとの組み合わせ需要が引っ張っているのだと思います。

――MESHやtoioといった教育向け製品も入っていますね。

牧井 MESHひらめきラボセットが45位、toioコア キューブが84位です。89位のtoioコア キューブ スターターセット(A3版)も去年から大きく順位を伸ばしました。どちらも長く売れ続けていて、教育現場での採用が広がっています。

安井 ハードウェアの開発力だけでなく、教育現場への商品展開を含めたマーケティング力がソニーの強みです。放っておいたら売れなくなるようなものを、時間をかけて浸透させている。

関税より円安――3000円台が6000円になった現実

――トランプ関税の影響はありましたか。

牧井 一時期アメリカ製品が2倍、3倍に値上がりして、SparkfunやPololuの製品で慌てた時期はありました。ただ、実際には関税発動前に方針が変わったり、思ったほど影響が出なかったり。振り回されはしましたが、結果的には大きなダメージにはなりませんでした。

安井 それよりも為替の影響のほうが深刻です。2018年頃は1ドル103円程度でしたが、いまは155円前後。M5Stack Basicは当時3000円台だったのが、いまは6000円を超えています。

牧井 正直なところ、価格を決めている私たち自身が「高いな」と思うことがあります。でも仕入れ値と利益を考えるとこうせざるを得ない。食料品など多方面の価格上昇も相次いでいる中、我々の業界へのお客様の予算が増えるわけもなく、当社としても悩みながら価格を検討し続けています。

安井 ホビー向けの需要は為替の影響を受けやすい一方、AI関連のような「未来への投資」として買われる製品は堅調です。このランキングでAI関連製品が目立つのは、そういう背景もあります。

TOPSに振り回されず、やりたいことで選ぶ時代へ

――今後注目している製品はありますか。

牧井 AIカメラやLLMモジュールなど、この1年で「試してみよう」から「実際に使ってみよう」のフェーズに入った製品は、来年さらに伸びると思います。Raspberry PiでAIを動かす事例も増えてきましたし、エッジAIの裾野は確実に広がっています。

安井 AIと一口に言っても、LLM、画像認識、空間把握、ロボット制御と方向性はさまざまです。「何でもできる最強モデル」を買うのではなく、用途に合った製品を選ぶ時代になってきた。TOPSのスペックに振り回されず、自分のやりたいことを軸に選んでほしいですね。

――最後に、読者へのメッセージをお願いします。

安井 このランキングは企業向け製品も含んでいるので、純粋なホビー向けの人気とは異なる部分もあります。ただ、私たちはホビーから離れていったわけではありません。高単価の製品が上位に来やすい集計方法なだけで、お客様の大半はいまもMakerの方々です。

牧井 為替や原材料高騰で価格が上がっているのは心苦しいですが、製品の選択肢自体はむしろ増えています。M5StackもArduinoもRaspberry Piも、それぞれ違う良さがある。自分に合ったものを見つけて、ものづくりを楽しんでいただければ嬉しいです。

(取材・構成:越智岳人、淺野義弘)

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越智 岳人

FabScene編集長。大学卒業後、複数の業界でデジタルマーケティングに携わる。2013年当時に所属していた会社でwebメディア「fabcross」の設立に参画。サイト運営と並行して国内外のハードウェア・スタートアップやメイカースペース事業者、サプライチェーン関係者との取材を重ねるようになる。 2017年に独立、2021年にシンツウシン株式会社を設立。編集者・ライターとして複数のオンラインメディアに寄稿するほか、企業のPR・事業開発コンサルティングやスタートアップ支援事業に携わる。 2025年にFabSceneを設立。趣味は365日働ける身体作りと平日昼間の映画鑑賞。