マイコンは1個のチップに収まったコンピューターだとよく言われる。確かに処理装置もメモリも備えるが、OSがなく操作も独特なため、デスクトップパソコンのようには使えない。Roberto Alsina氏は、ESP32を搭載した安価なタッチ液晶ボード「Cheap Yellow Display(CYD)」を、誰でも手が届く価格のパソコンに変えようと考えた。
氏が開発したOS「ESP-Osito」は、機能を盛り込むより簡潔さを優先した設計だ。バックグラウンドで動き続けるマルチタスクの層を持たず、アプリはSDカードから動的に読み込まれ、起動するとメモリ上で前のアプリと完全に入れ替わる。この割り切りにより、アプリはミリ秒単位で立ち上がり、前回の状態もほぼ瞬時に戻る。1990年代の携帯情報端末(PDA)に近い、待たされない操作感が生まれている。
アプリを閉じる前に状態のチェックポイントを保存し、開き直すと元の状態に戻す仕組みも備える。中核はイベント駆動のアーキテクチャで、各アプリは中央のイベントキューに登録し、タッチやキーボード、システムからの入力を受け取る。アプリは動的に読み込めるライブラリとして配られ、初期化や状態保存、終了処理、イベント処理の関数を持つ。土台はEspressifの開発フレームワーク「ESP-IDF」で、物理キーボードをつなげばポケットサイズの作業環境になる。
標準アプリも幅広い。Markdown形式の電子書籍リーダー、Linux向けのシリアル端末、軽量エディター「Kilo」をベースにしたテキストエディター、ペイント、電卓、スネークゲーム、NTPで時刻を合わせ天気も表示する時計、そしてOpenRouter経由で言語モデルにつなぐAIチャットを収める。ESP-Osito本体は無料のオープンソースで、現在も開発が続く。E Ink搭載機などへの対応も予定する。約10ドル(約1600円)のハードでここまで動く点は、安価な学習用端末や自作ガジェットを考える際の手がかりになるだろう。