MITの研究チームが、届いた赤外線を画素ごとに制御できる小型の光学チップを開発した。可動部を使わずに焦点や検出する波長を切り替えられ、赤外線カメラの小型化と、より多くの情報の取り込みにつながる。成果は2026年7月7日付でNature Communicationsに掲載された。
扱うのは中赤外と呼ばれる波長帯の光だ。人の目には見えないが、物体が放つ熱や、メタン、プロパンといった多くの分子を捉えるのに使われ、ガス漏れの検出や大気の観測、暗視装置などで役立ってきた。ただし、こうした赤外線を細かく制御する装置はこれまで大きく高価だった。開発したチップは、その制御を1枚の半導体チップの上で担う。
鍵になるのは、微細なパターンを刻んだ薄い光学素子「メタサーフェス」だ。素子には、熱を加えると結晶と非結晶の状態が切り替わる相変化材料を使う。状態が変わると赤外線との相互作用も変わるため、これを画素ごとに操れば光を細かく制御できる。従来のメタサーフェスは素子全体でしか状態を変えられなかったが、研究チームはディスプレイに使われる格子状の配線(クロスバー)を応用し、2次元の画素配列を1画素ずつ切り替える構造を作った。配線の交差点の下に置いた、微量の不純物を加えたシリコンが発熱して各画素の材料を切り替え、シリコンに組み込んだダイオードが隣の画素への電流の漏れを抑える。
研究チームは、MITのナノ加工施設MIT.nanoと半導体工場の設備を使い、6×6の画素配列を持つ試作機を作った。切り替えは安定して繰り返せ、多くが既存の半導体製造プロセスで作れるという。数百万画素の規模まで電流の漏れなく拡張できる見込みも計算で示しており、量産につなげやすいとしている。
筆頭著者のCosmin-Constantin Popescu氏は、大気中の特定の化合物の監視や環境保護、熱画像、暗視のほか、中赤外を吸収する有機分子の検出に使えると説明する。研究チームは画素数を増やし、より多くの赤外線情報を取り込める版の開発を進めている。将来は、光が素子を通る際に演算を担わせる光コンピューティングへの応用も視野に入れているという。