東京大学などの国際研究グループが、試験管で育てた「ミニ心臓」の拍動を、触れずに読み取るセンサーを開発した。魚のもつ感覚器に着想を得た仕組みで、薬の効き目を調べる創薬研究に役立つと期待される。成果は2026年6月29日、Nature Sensorsに掲載された。
ミニ心臓とは、ヒトのiPS細胞から作る「心臓オルガノイド」や、立体的に組んだ3D心筋組織のことだ。心臓の働きや薬の効き方は、動物実験だけではヒト特有の反応を再現しにくい。そこで、人の細胞から作った小さな心臓組織で、拍動や薬への反応を調べる手法が広がっている。ただ、従来は顕微鏡画像の解析に時間がかかり、組織をセンサーの上で培養したり固定したりする必要があり、多数のサンプルを同時に測るのも難しかった。
開発したのは、ウェルプレート型のセンサー「Biomechanical Well Plate(BWP)」だ。ウェルプレートとは、小さなくぼみがたくさん並んだ実験用の容器を指す。着想のもとは、魚が水流や圧力の変化を感じ取る「側線」という器官だ。
仕組みはこうだ。培養液で満たしたくぼみに心臓オルガノイドを入れると、拍動に伴う圧力変化で、液面がごくわずかに揺れる。この揺れが空気の圧力の変化として伝わり、高感度のシリコン製カンチレバー(片持ちばり)センサーがそれを電気信号に変える。組織に直接触れず、顕微鏡で長時間撮らなくても、拍動の強さやリズムをそのまま記録できる。
研究グループは、0.6〜2mmの心臓オルガノイドで測定し、結果が従来の顕微鏡画像の解析と良く一致することを確かめた。温度変化や薬剤、電気刺激への応答も連続して測れ、拍動を速める薬や、不整脈のような乱れを起こす薬に対して、拍動の頻度やリズムの乱れを捉えられた。2×2の試作アレイでは、培養環境を保ったまま、複数の心筋組織を同時にワイヤレスで測れることも示した。測定の様子は、スマートフォンでリアルタイムに確認できる。
研究グループは、この技術が創薬の評価や心臓への毒性の確認を簡単にし、患者の細胞を使った個別化医療や、動物実験に頼らない試験法の普及につながると期待している。