ハーバード大学の研究チームが、編み地そのものをスイッチとして働かせる技術を開発した。導電性の糸を編み込んだ布が、変形の瞬間に「カチッ」と切り替わり、押した感触を指に返しながら回路を開閉する。膝に当てれば歩数を数え、肘に当てれば自転車の方向指示灯を点ける。成果はAdvanced Functional Materialsに掲載され、大学が2026年7月15日に発表した。
出発点は、編み物にもとから備わる性質だ。編み機は糸を引っ張りながら目を作る。研究チームの測定では、糸は機械の中で元の長さの約2倍まで伸ばされる。編み上がって針から外れると糸は縮もうとするが、目が絡み合っているため元には戻れず、布の内部に力が残る。裁断した布の縁が丸まるのはこのためだ。
研究チームは、この残った力を設計に使った。編み機には手前と奥に2列の針床があり、どちらで目を作るかを場所ごとに変えると、布の内部で力の向きが変わり、山と谷ができる。単位となる模様を4×4のブロックに分け、各ブロックを12×12目で編む。組み合わせは6万5536通りある。研究チームが試した3種類のうち、H字型の模様は引っ張ると急に形が変わり、手を離してもその形にとどまった。
この切り替わりが、そのままスイッチになる。形が変わると、布の山どうしが触れる場所も変わる。触れ合う山に導電性の糸を編み込んでおけば、接点の開閉ができる。切り替わりの瞬間には力が0.1Nほど急に抜ける。人の指は10〜100mNの力を感じ取れるため、この抜けは指に伝わる。画面を見なくても、入ったかどうかが分かる。
作ったスイッチは3種類ある。押している間だけ入るもの、一度入れると形ごと保たれるもの、押し込むと裏返って下の銅テープに触れるボタン型だ。
応用も示した。1つ目は歩数計だ。膝の内側に押している間だけ入るスイッチを渡し、膝を曲げると2つの導電部が触れ、伸ばすと離れる。開閉の1往復を1歩として、Arduino Nano Everyが数え、画面に表示する。複雑な歩行の動きを、入と切だけの信号に単純化した。
2つ目は自転車用の袖だ。同じスイッチを肘に渡す。腕を曲げている間は接点が触れ、腕を伸ばすと離れてLEDの矢印が光る。手信号を出す動作がそのまま点灯になり、夜間に後続車から見えやすくなる。指先の感触で点いたか分かるので、目と耳は道路に向けたままでいい。布のままなので通気性も保たれる。
3つ目は形を変えられるランプだ。ラッチ式のスイッチ3組を円筒に縫い、それぞれにLEDをつないだ。折り方を変えると点灯の組み合わせが変わる。重さは電子部品を含めて71.4gで、布の部分は25分で編める。
編む素材を毛や再生繊維に変えても、目の大きさを変えても、切り替わりは起きた。同じ布を10回試しても繰り返し働いた。