Categories: ニュース

約280組が集うMaker Faire Tokyo 2026開幕、初日レポート #MFTokyo2026

国内最大級のMakerイベント「Maker Faire Tokyo 2026」が、2026年9月5日に有明GYM-EX(東京都江東区)で開幕した。会期は9月6日までの2日間だ。

今年は約280組のMakerや企業が出展し、うち約60組を学生Maker「Young Maker」が占める。会場はエレクトロニクス、ロボティクス、モビリティなどカテゴリーごとのゾーンに分かれ、ワークショップや体験企画も充実している。初日の会場で取材した作品を紹介する。

128バイトの「USB磁気コアメモリ」(I-03-06)

エレクトロニクスゾーンのdydt製作所が展示していたのは、アポロ宇宙船の時代に使われた磁気コアメモリをUSBメモリとして現代に復活させた作品だ。容量は1024ビットで、わずか128バイトしかない。PCからテキストや小さな画像を書き込み、読み出せる。書き込めるのはニコちゃんマークのようなごく小さな画像1枚程度だが、磁石を近づけるとデータが消える様子を見せてもらうと、確かに磁気で記録していることが分かる。

制作者はもともと磁場の研究をしていた人物で、旧ソ連の機器から取り外されたジャンクの磁気コアが海外のオークションサイトに約1万円で出品されているのを見つけ、取り寄せたのが始まりだ。当時の資料を参照しながらドライバーを設計し、仕事の合間に約半年かけて完成させた。ブースでは16ビットの磁気コアメモリボード(1000円)や、書き込みと読み出しに対応したメモリボード(4500円)も販売している。

部品代8800円の柿選果機(D-01-06)

Fab&アシスティブテクノロジーゾーンのオープンアグリテックは、福島県の農家と技術者による共同プロジェクトだ。農業現場の「なんとかならんかなー」を自作技術で解決することを掲げ、柿の重量選果機「AMF M5Grader」や稲の生育を記録するタイムラプス装置、Raspberry Piを使ったビニールハウスの遠隔開閉装置などを展示している。

目玉の選果機は、柿を載せると重さを量り、音声と色で「2L」などの規格を知らせる装置だ。市販の選果機は10万円を超えるうえ大型で、故障対応も難しい。そこでM5Stack Basicとロードセルで自作したところ、部品代は8800円に収まった。設計はオープンソースとして公開し、部品表には「知り合いの農家さんにシェアお願いします」と書き添えている。

選果機を製作した会津松原農園の島影亮輔氏は元ITエンジニアで、7年前に実家の農園を継いだ。出展は2025年に続き2回目だ。「1人が作ると他の人も得する。1人の努力がみんなに還元されるのは、市販品を買って勧めるだけでは得られない良さです」と島影氏は手応えを話す。

ラズパイPico 2で動くシンセサイザー(G-01-08)

ミュージックゾーンのISGK Instrumentsは、Raspberry Pi Pico 2で動くシンセサイザー「PRA32-U2 v2」を展示している。市販のI2S DAC基板を組み合わせるとUSB MIDI音源として動作し、湾曲ノコギリ波やピッチの揺らぎ、フィルターの歪みに対応する。ライセンスはCC0(パブリックドメイン)で公開している。

作者のRyo Ishigaki氏は浜松市在住の組み込みエンジニアだ。Picoを使い始めたきっかけは、雑誌「Interface」(CQ出版)からラズパイPicoの記事執筆を依頼されたことだった。「1000円ちょっとで安くて性能がいい。誰でも簡単に手に入る一番スタンダードなボードなので、これで作れば皆さんと一緒に作品作りができる」とIshigaki氏はPicoを選ぶ理由を語る。ブースではPicoRubyで書いたMIDIコントローラー「PRMC-1」も体験できる。Rubyのコードは約500行だという。

「時代は空圧」――自作エアサーボの4脚ロボット(H-02-08)

ロボティクスゾーンのRABBOT LABORATORYのブースには、「時代は空圧」と書かれた手書きの看板が立つ。展示しているのは、圧縮空気で動く4脚ロボットだ。エアシリンダーは通常、伸び切った状態か縮み切った状態で使われるが、同チームはシリンダーの位置を検出しながら制御する「エアサーボ」を、サーボバルブや駆動回路から自作した。

メンバーはロボコンOBの5人で、機械設計やソフトウェア、セキュリティなど所属も専門も異なるエンジニアの社会人チームだ。最終目標に掲げるのはうさぎ型ロボットで、その駆動部から作るために大きく遠回りをしている。エアシリンダーとサーボバルブの開発は9年ほど前から続けており、4脚ロボットとしての展示は今年で3年目になる。毎年、制御方法やバルブの改良、姿勢センサーの追加を重ねてきた。電動化の流れの中であえて空気圧を選ぶ理由を尋ねると、「制御が向上すれば、空気圧にもまだできることがあるはず」と答えた。2027年は歩く姿を見せることが目標だ。

モーターがセンサーになる制御基板(H-02-04)

同じロボティクスゾーンの佃優河氏は、モーターに高周波の信号を流すことで、駆動しながらモーターの状態を測定する技術を展示している。ブースでは、モーターから直接音が鳴るデモや、ベルトコンベアにかかる負荷が電流のグラフに表れるデモ、温度を抵抗値の変化から読み取るデモが並ぶ。従来のセンサーレス制御が10kHz程度で動くのに対し、数MHzの信号を使うことで高精度な測定を狙う。開発ボードは英XMOS製で、6層基板は自身で設計した。

佃氏は筑波大学で情報系を学んだ後、現在は東京藝術大学大学院でメディアアートを研究する美術家だ。本作は未踏事業に採択されており、支援が終わる2027年3月末までに名刺サイズのモータードライバーを完成させ、その後の起業を目指す。「ドローンはモーターの状態を推定するためにセンサーを後付けする。それが全部なくなれば重量を大きく減らせる」と応用先を見据える。

初代ムラタセイサク君の父が再び作った自転車ロボ(H-01-07)

ロボティクスゾーンのモバイルボット研究会は、倒れずに走る自転車ロボット「ROBOBIKE」を展示している。重さは160gだ。出展者は、1990年代に村田製作所の自転車ロボット「初代ムラタセイサク君」を考案・開発したエンジニアだ。ラジコン機器の開発会社に在籍していた当時、同社のジャイロセンサーを宣伝するテレビCM用として開発した2輪走行ロボットを、約30年ぶりに現代の部品で作り直した。当時の機体は重さ1kg超、推定原価は100万円だった。

安くなった理由は部品の進化の積み重ねだ。アルミの厚板から削り出していたフレームはベニヤ板のレーザーカットに変わり、価格は100〜200円程度に下がった。1個1万円だったサーボは通販で300円ほどになり、1万円したラジコン受信機の役割はESP32が担う。ボールベアリングは1つも使わず、滑り軸受で置き換えた。「板に穴を開けて棒を挿すだけで、十分滑らかに回ってしまう」と作者は笑う。2025年のゴールデンウィークに約1カ月で作り上げ、今年から8800円(税・送料込み)で販売を始めた。回路図とソースコードも公開している。

鉄を削る自作CNC「MartyBOX」(D-02-02)

Fab&アシスティブテクノロジーゾーンで存在感を放っていたのが、個人開発のCNCフライス「MartyBOX」だ。3Dプリンターの樹脂パーツでは強度が足りない、既存のオープンソースCNCではアルミ程度しか削れない。金属を削った質感が好きだという作者は、鉄を削れるマシンを求めて、2024年9月から機械部品の設計・加工、制御、操作パネルまでを1人で作り上げた。

出発点はボール盤だった。ボール盤に手を加えて簡易的なCNCを作り、それで部品の精度を上げながら現在の機体にたどり着いた。機械を作るための機械から自作したことになる。総額は「車が買えるくらい」かかったという。家庭用の100V電源で動き、取材前日も自分のマシンの部品を削っていた。本業は製造業向けソフトウェアのサポートで、機械は独学だ。今後は回転軸を加えた4軸化を構想しており、法人向けの小型試作機としての展開も視野に入れる。Maker Faireへの出展は今回が初めてだ。

レシートを入れるだけの家計簿マシン(B-05-05)

Young Maker&スペースゾーンのかけナビProjectは、レシート専用スキャナ「かけナビ ポスト」を展示している。上部の溝にレシートを差し込んでボタンを押すと、内部でスキャンと画像処理、AI-OCRによる読み取りが走り、家計簿への登録まで自動で終わる。ローラーを強く押し付けてシワを伸ばし、ゴムパッドで複数枚のレシートを1枚ずつ送る紙送り機構が工夫のしどころだ。

開発したのは電気通信大学発の5人の学生チームで、活動は授業ではなく趣味の集まりだ。家計簿アプリの写真撮影機能では読み取りの修正に手間がかかり、続かなかった経験が出発点になった。マイコンにESP32を選んだのは、メモリが大きく画像処理に向くからだ。Maker Faireへの出展は初めてで、「完成度を上げてから来たかった気持ちもあったが、いざ来てみると人と話しているだけで楽しい。来てよかった」と会場の雰囲気を楽しんでいた。

3Dプリンター製ラジコンを組んで走らせる(W-01-01)

ワークショップゾーンでは、電動バイク「タタメルバイク」で知られ、FabSceneでもたびたび取材してきたICOMAが、3Dプリンター製ラジコン「ICOMA TOYBOX RC」の組み立てと走行体験を開いている。参加は無料で、1回30分程度、小学生以上が対象だ。ブースにはラジコンの元になった原付ミニカーの実車も並び、手のひらサイズの模型と公道を走る実車を見比べられる。マグネットアタッチメントでパーツを組み替えられる車体はデータが無料公開されており、3Dプリンターがあれば材料費2000〜3000円分のフィラメントとマイコンなどを合わせて1万円弱で作れる。2万円程度からのホビーラジコンに比べ、大幅に安い。

開発のきっかけは、4輪車を開発している社内の勉強のためにラジコンを始めたところ、メンバー全員が夢中になったことだった。現在はコストをさらに下げ、プログラミングにも対応する専用基板を開発中だ。担当者は、ラジコンで車の仕組みを理解してもらい、試作と実車の開発をつなげることが狙いだと話す。ブースの走行コースは初日午前の枠が先着で埋まる盛況だった。

割り箸を割って磨く全自動マシン(I-01-02)

エレクトロニクス&企業内部活ゾーンでは、「ギリギリ役に立つ」をテーマとする発明家のカズヤシバタ氏が、FabSceneでも取り上げた「全自動割り箸割り機2」の実機を展示している。記事や動画で見た人も多いはずだが、割り箸を差し込むと自動で読み込み、割って、磨いて返してくれる一部始終を目の前で確かめられるのは会場ならではだ。

鍵になるのは爪の付いたユニットで、割り箸表面のくぼみを引っかけて左右に引っ張り、中心軸を合わせてからクランプする。その後、小型の丸ノコが接続部に切り込みを入れ、ベルトサンダーが断面を2往復磨き、斜めに動かして面取りまで済ませる。加工中の粉じんは背面の集塵機が吸い続ける。出てきた割り箸の断面は、指でなでてもささくれ一つないつるつるの仕上がりだった。

あみぐるみが動き出す「Seals & Penguins」(F-03-02)

デザイン&クラフトゾーンのBonya pupuは、テキスタイルとロボティクスを融合したアザラシとペンギンのロボットを展示している。動物の立体作品を手掛けてきた菅瀬彩音氏が外装を、FabSceneでライターとしても活動する小林竜太氏がロボット機構を担当する夫婦ユニットだ。2人での制作は2025年から始めた。外装の制作には約1カ月、貼り込みなどの細かい作業にさらに約1カ月かかる一方、ロボット部分は数日で仕上がる。

アート分野での展示経験はあるものの、Maker Faireには初めて出展した。「アート作品は触ってはいけない距離感で見られることが多い。ここではみんな触ってくれるし、近い距離で話せるのがいい」と菅瀬氏は会場の反応を喜ぶ。今後は電池駆動化や、なでると反応するインタラクションの追加を構想している。

0/1 Clubの試作品2点も展示中(I-04-03)

ビット・トレード・ワンのブースには、同社ときびだんご、FabSceneの3社が立ち上げたMakerの製品化支援の取り組み「0/1 Club」で開発が進む試作品2点が並んでいる。むらさき氏のスマートかぎ針は、編み図データを読み込むと次に編むべき色をLEDで知らせ、1目編むごとにボタンを押して進捗を記録できる道具だ。浜田紗綾子氏の「Scratch Act」は、教育用プログラミング環境Scratchで作ったゲームをSDカードから起動できる専用ゲーム機で、GPU搭載SoCと8GBメモリ、5インチ液晶を備える。どちらも実物を手に取って確かめられるので、立ち寄ってみてほしい。

ここまで紹介したのは、会場に並ぶ作品のごく一部だ。2日目となる9月6日は10時から17時まで開催し、当日券は大人1800円、終了2時間前から入場できる夕方割は1300円、18歳未満は700円だ。入場は終了30分前までとなっている点に注意してほしい。

Maker Faire Tokyoはここ数年、国際展示場(東京ビックサイト)で開催されていたが、今年は会場が有明GYM-EXに移っている

関連情報

越智 岳人

FabScene編集長。オープンソースハードウェアや3Dプリンター、デジタルファブリケーション、ハードウェアスタートアップを専門領域とする。 大学卒業後、複数の業界でデジタルマーケティングに携わる。2013年当時に所属していた会社でwebメディア「fabcross」の設立に参画。12年間に渡ってサイト運営に従事し、月間100万PV規模に成長させる。並行して国内外のハードウェア・スタートアップやメイカースペース事業者、サプライチェーン関係者など100人以上取材。 2017年に独立、2021年にシンツウシン株式会社を設立。編集者・ライターとして複数のオンラインメディアに寄稿するほか、企業のPR・事業開発コンサルティングやスタートアップ支援事業に携わる。 2025年にFabSceneを設立。ハードウェアとデジタルファブリケーションの「現場」を一次取材で記録することをミッションとする。趣味は365日働ける身体作りと古着屋巡り。