米カリフォルニア大学ロサンゼルス校を中心とする研究チームが、リチウムイオン電池が発火する手前の状態を、電池に手を加えずに見分ける手法を開発した。使うのは、スマートフォンやモバイルバッテリーの回路が普段から読んでいる電圧と電流の値だけになる。危険な状態に近づいたら充電の電流を自動で絞る仕組みまで作って確かめた。
電池の発火は、多くの場合ある現象から始まる。充電中にマイナス側の電極の表面で、リチウムが金属の粒として析出する。これが針のように伸びてプラス側まで届くと、電池の中で短絡が起き、一気に熱を持つ。膨らんだモバイルバッテリーやノートパソコンが火を噴く事故の背景には、この現象がある。
厄介なのは、外から見て分からないことだ。析出が始まるかどうかは、マイナス側の電極だけの電圧が0Vを下回るかで決まる。水が0℃を境に凍るのと同じで、境目そのものははっきりしている。ところが市販の電池はプラスとマイナスの2つしか端子がなく、マイナス側だけの電圧を測るには基準になる3本目の電極を差し込む必要がある。実験室では作れても、量産する電池には入れられない。
そのため電池の管理回路は、電池全体の電圧という間接的な数字しか見ていない。全体の電圧からは、危険な析出が始まったかどうかを判別できない。結果として、安全側に倒して充電を遅くするか、速く充電して危険を見逃すかの二択になっていた。急速充電をうたう機器でも、実際には余裕を大きく取って設計されている。
研究チームが採ったのは、測るのをあきらめて当てにいく方法だ。実験室で3本目の電極を入れた電池を、さまざまな条件で充放電して980万点のデータを集める。そのうえで、市販の電池からでも取れる電圧と電流の値だけを入力にして、マイナス側の電圧を出力する機械学習のモデルを作った。誤差は平均0.018Vにとどまる。モデルが「そろそろ危ない」と判定した付近で、実際に金属の析出が始まっていることも電子顕微鏡で確認した。
推定できれば、充電のしかたを変えられる。危険な水準に近づいたら電流を絞り、余裕があるときは流す。研究チームはこの制御を、通常より攻めた設計の電池で試した。設計に余裕がないぶん体積あたりの容量は増えるが、析出も起きやすくなる。これまでは危険を測れないために、その手前で設計を止めるしかなかった。
研究には米コロラド鉱山大学、米スタンフォード大学、韓国エネルギー工科大学校が参加した。成果は2026年8月11日、学術誌Nature Communicationsに掲載された。