サウジアラビアのハイル大学などの研究チームが、3Dプリント中にベッドをわざと揺らすと、造形物の強度が最大15%上がると発表した。熱で溶かした樹脂を積み上げるFFF方式では、層と層の接着の弱さと内部のすき間が強度を頭打ちにしてきた。ヒートベッドの下に振動用のモーターを付けて中程度の揺れを与えたところ、引張強度と降伏強度、曲げ強度が従来より約8〜15%高くなり、内部のすき間の大きさは約60%小さくなった。論文は2026年7月20日、オープンアクセス誌のPolymersに掲載された。
3Dプリントの世界で振動は敵として扱われてきた。重いプリントヘッドが素早く動くと機体が揺れ、造形物の表面に波打つ模様が出る。だからプリンターは安定した台に置くよう勧められる。研究チームが目を付けたのは、揺れを消す方向ではなく、狙って加える方向だった。溶けた樹脂どうしがなじみきる前に固まると、層の境目に接着の弱い部分とすき間が残る。ここに外から振動を与えれば、樹脂が広がって密着するのではないかという発想だ。
装置はCrealityの「Ender-3 Pro」を改造して使った。ヒートベッドの下に12Vのモーターを取り付け、重心をずらした錘を回して揺れを作る。かける電圧を2.3V、4.6V、6.9Vの3段階に変え、モーターの回転数はそれぞれ毎分1878回、2706回、3180回になる。プリンターが単体で出す振動は約133.5Hzで速度は毎秒2.63mmだったのに対し、モーターを回すと31〜53Hzの低い周波数で毎秒5.27〜19.05mmの揺れが加わった。造形速度と線を引く向き、振動の強さを組み合わせて試験片を作り、条件の効き方を統計的に調べる応答曲面法で最適な組み合わせを探した。
最も成績が良かったのは3段階の真ん中、電圧4.6Vの条件だった。電子顕微鏡で断面を見ると、振動なしでは0.16〜0.17mmあったすき間の代表的な大きさが0.06〜0.07mmまで縮んでいる。赤外分光の分析ではPLAの化学構造に変化がなく、強くなった原因は樹脂の性質ではなく詰まり方にあると裏付けられた。ただし揺らせば揺らすほど良いわけではない。強すぎる振動は造形を不安定にし、表面を荒らして特性をかえって落とす。研究チームは、振動は最大にする対象ではなく調整するパラメーターだと結論づけている。統計処理で導いた最適条件は、造形方向0度、造形速度毎秒50.3mm、モーター回転数毎分2517回だった。