
研究室での液体移送に使用する精密ポンプは高価だが、Arduino Nanoと安価なダイアフラムポンプを組み合わせることで、研究室品質の流量制御を低予算で実現するDIYプロジェクトが公開された。Arduino公式ブログが2025年7月14日に紹介したこのシステムは、YouTuberのMarbが設計したもので、数ドルの12VDCダイアフラムポンプをPWM制御により精密な流量調整が可能な装置に変える。
Marbは以前のプロジェクトで真空エジェクターを使用していた際、研究室では流量調整可能な電動ポンプが非常に実用的だと考え、このシステムを開発した。通常の安価なポンプは単純なON/OFF動作のみで、流量制御ができない。アナログ調整機能を持つポンプも存在するが精度が低く、研究室での使用には不適切だった。このDIYシステムでは、パルス幅変調(PWM)技術を用いて実効平均電圧を調整し、ポンプモーターの回転速度を精密に制御する。
システムの中核となるのは「Arduino Nano」で、3Dプリンター用ヒートベッド向けのpower MOSFETモジュールに制御信号を送る。使用したダイアフラムエアーポンプは最大流量10L/分の性能を持つ。MOSFETが高速でON/OFFスイッチングを行い、そのデューティー比(ON時間とOFF時間の比率)によって平均電圧を決定する。この平均電圧がポンプモーターの回転速度、つまり流量を決定する仕組みだ。
ユーザーインターフェースは16×2キャラクターLCDディスプレイとプッシュボタン機能付きロータリーエンコーダーで構成される。利用者はロータリーエンコーダーを回してPWM値を設定し、プッシュボタンでポンプのON/OFFを切り替えられる。すべてのコンポーネントは、はめ込み式のアルミニウム筐体に収納され、実用的な装置として完成している。
オープンソースで公開、PWM制御の限界も解説
Marbは製作したシステムのコードと配線図をGitHubで公開している。また、PWM制御の技術的制約についても説明している。モーターは回転を維持するために一定以上の電圧が必要で、PWMではモーターの回転速度をゼロまで下げることはできない。モーターが停止すると内部抵抗が非常に低くなり、過大電流によるオーバーヒートの原因となるためだ。
非常に低い流量が必要な場合には、システムに水族館用のエアレギュレーティングバルブを追加することを推奨している。基本コードではロータリーエンコーダーによる流量設定とプッシュボタンによるON/OFF制御のみだが、タイマーやインターバル動作などの機能を簡単に追加できる拡張性を持つ。
システムの使用にはPWM値と実際の流量の対応関係を調べる校正作業が必要となる。しかし校正後は、多くの研究室作業に十分な精度と確度を提供するという。
従来、精密な流量制御が必要な研究室では高価な専用ポンプを購入する必要があったが、このDIYアプローチにより大幅なコスト削減が可能になる。特に予算制約のある教育機関や小規模研究室にとって有用なソリューションとなりそうだ。MarbはYouTubeでプロジェクトの詳細な製作過程を公開し、コードと配線図もGitHubで提供している。