
クラウドファンディングプラットフォーム「きびだんご」は7月18日、中国LifeSmartが開発したゲーミングチェア装着型サラウンドスピーカーシステム「COLO GCS」の日本展開プロジェクトを発表した。同社が都内で開催したプレスミーティングには同社CDO(最高デザイン責任者)の吴冬悦(Wu Dongyue、以下Wu氏)氏も登壇し、5年の歳月をかけて開発した同製品の特徴や技術的な革新について詳しく説明した。
COLO GCSは、一般的なゲーミングチェアに取り付けるU字型のスピーカーシステムで、11個のスピーカーを搭載してドルビーアトモス対応の7.1.2チャンネルサラウンドを実現する。99%以上のゲーミングチェアに対応し、設置は約5分で完了する。きびだんごでのクラウドファンディングプロジェクトは8月7日まで実施され、目標金額550万円を達成すると日本への正規輸入が決定する。
開発責任者のWu氏は、開発のきっかけについて「私自身もゲーマーだが、小さな部屋ではドルビーアトモスなどの現代的なサラウンドサウンドを十分に体感できていない。実際には、そういった環境でゲームをしているプレイヤーが多いことに気づいた」と語った。同氏は2014年頃に他社のサウンドバーを購入しPC部屋に設置したが、「音の方向性が正しくなく、リビングのような効果を得ることができなかった」という体験から、PCゲーマー向けの専用システムの必要性を痛感したという。

従来のスピーカーとも異なる独自の音響設計技術
COLO GCSの最大の特徴は、従来のスピーカーシステムとも、ヘッドフォンとも異なる「ニアフィールドスピーカー技術」を採用している点だ。スピーカーが耳に近い位置にありながら、ヘッドフォンのように装着する必要がないため、長時間使用しても疲労が少ない。
「これまでスピーカーでもヘッドフォンでも、COLO GCSのような要件で音響を研究したメーカーは存在しなかった」とWu氏は説明する。そのため開発には大きな挑戦が伴い、アジア最大級の無響室での音響実験や、40~50個の試作品を製作して最適な形状を追求、開発には5年をかけたという。
内部構造は最前面のスピーカーで中央の音を表現し、2番目のスピーカーペアで前方左右の音、その次のスピーカーで側面の音を表現する設計となっている。さらに低音ユニットと2つのパッシブラジエーターを組み合わせることで、椅子を通じて振動も体感できる。
従来のサウンドバーは上向きスピーカーの反射音で天空チャンネルを表現するが、COLO GCSは物理的に頭上にスピーカーを配置している。この仕様は「飛行機が頭上を通過する音をこれほど明確に聞くことができる唯一の方法」(Wu氏)だという。
内蔵されているのは、ドルビーアトモス認証を取得したチップで、合計10チャンネルの信号を伝送できる。これは従来の2.0ステレオの2チャンネル信号の5倍の情報量で、11個のスピーカーユニットが同時に動作することを可能にしている。このチップにより、非アトモス対応コンテンツも同期的にアトモスサウンドに変換でき、事実上無限の映像・音響リソースを活用できるという。
製品には一般的なモニター(HDMI)とテレビ(HDMI eARC)の両方に対応する入力端子を備えており、PC、PlayStation 5、Xbox、VRデバイスなど幅広いプラットフォームで使用できる。電力は36W、電圧はDC 12V/3A、スタンバイ電力は0.5Wとなっている。

継続的なファームウェア進化とモード最適化
製品背面にはUSB-Cポートを搭載し、フラッシュドライブ経由でのアップデートが可能だ。これまでに50回以上のファームウェアアップデートを実施するなど、音響特性の最適化を継続的に行っている。
COLO GCSには、コンテンツごとに最適化された5つのモードが用意されている。Universal(ユニバーサル)モードは最も音響カーブを調整していない、原音に忠実なモード。Theater(シアター)モードは人の声と低音を強化し、映画鑑賞に最適化されている。Racing(レーシング)モードは欧米ユーザーの要望で追加されたモードで、「欧米系の人の鼓膜は低音により鈍感なため、より多くの低音を求める」(Wu氏)として、スピーカーの限界を超えた低音を出力する。
FPS(エフピーエス)モードは足音と銃声を強化し、連続する低音を抑制してゲームに集中できるよう調整されている。さらに天空音も隠れて強化されており、空間感をより高めている。Music(ミュージック)モードはリリース後に追加されたモードで、「無響室に一週間こもって調整した」(Wu氏)という。Universalモードをベースに、人の声をより美しく聞かせる設定を施している。

Wu氏は「FPSゲームをプレイする人は音の美しさよりも勝利を重視し、音楽鑑賞の人は音全体の美しさを重要視する」として、ユーザーの用途に応じてさらなる最適化を進めていく方針を示した。
特にFPSゲームでは、敵の足音がどこから来るのか、遠くからの銃弾がどの方向から飛んでくるのかを正確に判別でき、一部のユーザーからは「物理チート」と呼ばれるほどの効果を発揮する。従来のヘッドフォンでは「真正面と真後ろの音を正確に判別することができない」(Wu氏)が、COLO GCSでは物理的に異なる位置にスピーカーが配置されているため、より正確な音の定位が可能だという。
製造ラインの長さは冷蔵庫の4倍
開発の困難さについてWu氏は「一般的なオーディオ機器よりも部品点数が非常に多く、通常の冷蔵庫生産ラインの4倍の長さの生産ラインが必要だった」と振り返る。150人が作業する大規模な生産体制を構築し、複数の領域のエンジニアが協力することで製品化を実現した。
「最も困難だったのは構造設計で、音響学と力学のバランスを取る構造設計だった。従来のスピーカーの構造エンジニアは四角い箱しか作れず、このような形状は作れなかった」とWu氏は説明する。そのため、複数の構造エンジニアが協力してこの製品を作る必要があった。
最初は「透明なアクリル板で巨大なアーチ型にしようと考えていた」が、「音が十分に良くならなかった」という。40~50個の試作品を製作し、形状の最適化を重ねた結果、現在の独特な形状に落ち着いた。
製品にはカスタマイズ用のステッカーが同梱され、ユーザーが自分好みにカスタマイズできる。実際に中国では、ユーザーが自主的にガンダムやエヴァンゲリオンをモチーフにしたカスタムペイントを施すなど、活発なカスタマイズ文化が生まれている。「実際に弊社がこのユニットを設計する際、ガンダムやエヴァンゲリオンのデザインインスピレーションを参考にした」(Wu氏)という。
LifeSmart社は中国を拠点とするスマートホーム企業で、Wu氏はCDOかつ共同創設者を務めている。同社が2017年頃に開発したRGBライト製品「Cololight」が、偶然eスポーツコミュニティで大ヒットし、2018年のクリスマス時期にヨーロッパで200万個を販売する現象的な結果となった。これをきっかけに、ゲーミング分野への本格参入を決めたという。
COLO GCSは、サイズが610×643×342mm、重量や詳細な技術仕様は公表されていないが、Bluetooth範囲は10m以上、互換性はPC、PS5、Xbox、スマートフォン、VR機器をサポートする。超早割価格は5万9800円(送料・税込)で、2025年12月の出荷を予定している。
Wu氏は「ゲームの開発者の本来の意図を真に体験できる製品を提供したい」と述べ、日本市場への本格参入への意欲を示した。