
燃料も排気ガスも出さず、ほぼ無音で動作する特殊なエンジンを搭載した自転車の製作が進められている。エンジニアのTom Stanton氏が自身のYouTubeチャンネルで公開した動画では、金属ブロックに蓄えられた熱エネルギーだけで駆動するエンジンの開発過程を詳細に記録している。
このエンジンは「スターリングエンジン」と呼ばれる外燃機関の一種で、密閉された空気を加熱・冷却することでピストンを駆動する仕組みだ。従来のガソリンエンジンと異なり、バルブや点火装置が不要で、熱源があれば継続的に動作する特徴がある。
Stanton氏が製作したエンジンは、100~150Wの出力を目標としており、これは約0.2馬力に相当する。時速24km程度での巡航を想定した設計となっている。エンジンの冷却側には水冷システムを採用し、効率的な熱交換を実現している。

精密加工と試行錯誤で動作を実現
製作過程では、ピストンリングの気密性確保が最大の課題となった。当初はPTFE(テフロン)リングを使用していたが、十分な密閉性を得られず、最終的に3DプリンターでTPU樹脂製のピストンリングを製作することで解決した。
また、ピストンの移動距離とクランク軸の関係も重要な要素だった。初期設計では30mmのクランク移動に対してピストンが14mmしか動かず、空気の過圧縮により効率が低下していた。クランク軸を25mmに短縮し、ディスプレーサーピストンの移動量を増加させることで改善を図った。
エンジンブロックはアルミニウムで製作され、高温部分は耐熱性の高いスチール製部品を採用している。冷却フィンと水冷システムを組み合わせることで、温度差を最大化している。

動作テストでは、スチール製の加熱キャップが赤熱するまで加熱し、水冷側は40度Cに保つことで十分な温度差を確保した。最終的にエンジンは自立運転に成功し、加熱を停止した後も蓄熱により継続動作することが確認された。
現在のエンジンは初期動作段階にあり、Stanton氏は今後の改良点として再生器の追加、内部圧力の増加、適切なバーナーシステムの構築、クラッチ機構の設計などを挙げている。スターリングエンジンはスロットル制御が困難なため、実用的な自転車として機能させるにはさらなる開発が必要としている。