
Iridiumは2025年7月21日、Arduino IDEに対応した衛星通信IoT開発キット「Iridium Certus 9704 Development Kit」の提供を発表した。このキットは、従来は企業レベルでしか実現困難だった衛星通信システムを、個人の開発者やMakerでも手軽に構築できるレベルまで簡素化したことが特徴だ。
Iridiumは低軌道上に66基の衛星を運用する商用衛星通信事業者で、地球全体をカバーする通信網を提供している。同社がDevice Solutionsと協力して開発したこの開発キットは、従来は高額で複雑だった衛星IoTシステムを、Arduino環境で慣れ親しんだ開発手法で扱えるようにした点が特徴だ。
67×77mmのコンパクトサイズに衛星通信機能を統合
「Iridium Certus 9704 Launch Pad Developer Board」は67×77mmのコンパクトなサイズに、Iridium Certus 9704衛星トランシーバーモジュールを搭載している。このモジュールはIridium Messaging Transport(IMT)サービスを通じて双方向データ通信が可能で、最大100KBのメッセージを送受信できる。
開発キットには3000mAhのリチウムイオンバッテリー、ヘリカルIridiumアンテナ(SMA直角アダプター付き)、microSDカード、USB-Cケーブルが同梱され、すぐに開発を始められる構成となっている。
メインコントローラーにはMicrochip ATSAMD21J18Aマイクロコントローラーを採用し、Arduino IDEとの完全な互換性を実現。UART、SPI、I2C接続に加え、22本のデジタルI/Oピンを備えている。このうち12本はPWM対応、8本はアナログ入力、1本はアナログ出力、14本は外部割り込みとして利用できる。
前世代比83%の省電力化でバッテリー駆動を長期化
ボード上にはu-blox MAX-M10S GNSS(全球測位衛星システム)モジュール、Texas Instruments BQ24195L ICによるバッテリー管理システム、プッシュボタン、ピエゾブザーも搭載されている。
特筆すべきは、前世代のトランシーバーと比較して83%のアイドル時消費電力削減を実現している点だ。これにより、バッテリー駆動での長期間運用が可能となり、電源インフラが整備されていない遠隔地での継続的なデータ収集が現実的になった。
Iridiumの製品エンジニアリング担当エグゼクティブディレクターであるGarrett Chandler氏は「この製品の市場での普及は我々の最高の期待をも上回っている。これは製品設計とユーザーエクスペリエンスにおいてArduino中心の戦略を採用したことが要因だと強く信じている」と述べている。
開発キットは、環境モニタリング、農業IoT、海洋調査、極地研究など、従来の通信インフラでは対応困難だった用途での活用が想定されている。開発者はIridiumのWebサイトから注文申請が可能となっている。