シンガポールのA*STAR量子イノベーションセンターの研究チームが、磁石の上に浮かせたミリメートル規模の回転体を開発した。室温のまま、電源を切ったあとも10時間以上回り続ける。回転の勢いが落ちる速さは3.85マイクロヘルツで、これまで微小な回転体でしか届かなかった水準に達した。成果は学術誌『Nature Communications』にオープンアクセスで掲載された。
回転体を浮かせているのは反磁性と呼ぶ性質だ。多くの物質は磁石を近づけると弱く反発する。その力を使えば、電気も制御装置も要らずに物を空中で保持できる。光の力で捕まえる光ピンセットや電磁石の罠でも物は浮かせられるが、いずれも浮かせ続けるために電力を供給し続ける必要がある。反磁性による浮上は、永久磁石を置くだけで済む。ただし、金属を磁場の中で動かすと内部に渦のような電流が生じ、それが抵抗となって回転を止めてしまう。渦電流によるこの減衰が、大きな回転体で損失を抑えられなかった原因だった。
研究チームが使ったのは、回転の対称性である。磁石の配置を回転軸まわりで対称にし、回転体もその軸を中心に回るようにすると、回転体から見た磁場は回り続けても変わらない。磁場が変化しなければ渦電流は生じない。原理そのものは知られていたが、それを実際に組み上げて損失の記録を更新した。
実験では高真空の中で、接触しない静電気の力を使って回転体を毎分930回転まで加速した。そこで駆動を止めると、10時間を超えて回り続けた。残った損失の原因も調べており、気圧が高いときは気体の分子がぶつかることが、低いときは台の微小な傾きや材料のむらといった対称性のわずかな崩れが効いてくるという。
回転体をジャイロスコープとして使い、感度を測ったところ、毎秒6.5×10のマイナス3乗度だった。市販品と同等の水準にあたる。熱による揺らぎだけが残った場合の安定度は、1時間あたり5.7×10のマイナス7乗度と見積もられている。
ジャイロスコープは、自分がどれだけ回ったかを測る装置だ。加速度計と組み合わせれば、外部からの信号を受け取らずに自分の位置を推定できる。地下やトンネル、水中、あるいは衛星の電波が届かない場所での移動に使う。研究チームは、反磁性による浮上が、室温で動く高性能なセンサーの土台になりうると位置づけている。