スマホからEVまで、私たちの暮らしはリチウムイオン電池に支えられている。その材料となるリチウムをどう確保するかは、ものづくりの足元を左右する問題だ。NIMSや東北大学、東京大学などの共同研究チームが、電源を使わずに水からリチウムを回収する新しい原理を見つけ、その成果が2026年6月29日にNature Communicationsに掲載された。
カギを握るのは、細菌だ。研究チームは、リチウムイオン電池の正極材料であるλ-MnO2(ラムダ型二酸化マンガン)のナノ粒子と、自然界に広くいるシャワネラ菌(Shewanella oneidensis MR-1)を混ぜ合わせた。すると両者が自発的に集まり、ミリメートルほどの大きさのかたまりをつくった。この細菌は、体内で有機物を分解して得た電子を、外の物質へ直接渡す性質を持つ。その電子が電池材料へ流れ込み、リチウムだけが材料の結晶構造に取り込まれる。
これまで主流の回収法には課題があった。塩湖の水を天日で蒸発させる方法は、大量の水を消費する。電池材料を電極に使う電気化学的な方法は、速くて選択性も高い半面、大規模にするには広い電極と電源が要る。今回の手法は、細菌が電源の役割を担い、材料そのものが反応の場になるため、電極も外部電源もいらない。
性能も実用的な水準にある。茨城県の大洗で採取した実際の海水を使った試験では、リチウムの濃度が低いにもかかわらず、数時間以内に95%以上を回収できた。海水に多く含まれるナトリウムやマグネシウムなどの混入は1%未満で、電極を使う方法に並ぶ選択性と速さを示した。試算では、炭酸リチウムの製造コストは1kgあたり約6ドル(約970円)で、既存の方法と同等の経済性だという。
研究チームは、この原理がリチウムだけにとどまらないとみている。ナトリウムやマグネシウムなど、ほかの金属イオンの回収にも応用できる可能性がある。自作のバッテリーや電子工作で使う材料のもとが、将来こうした手法で安く、環境への負担も小さく得られるようになるかもしれない。