
韓国標準科学研究院(KRISS)を中心とした国際研究チームが、室温でも存在できる新しいタイプの氷を発見した。2025年10月10日、欧州のX線自由電子レーザー施設European XFELが発表した。この氷は「ice XXI(アイス21)」と名付けられ、土星の衛星タイタンなど、氷でできた天体の内部を理解する手がかりになる可能性がある。研究成果は科学誌Nature Materialsに掲載された。
水は私たちにとって身近な物質だが、実は非常に不思議な性質を持つ。冷凍庫で作る普通の氷以外にも、水分子の並び方が異なる20種類以上の氷が存在することが分かっている。これらは「ice I(アイス1)」「ice II(アイス2)」のようにローマ数字で区別される。今回見つかったice XXIは21番目の氷だ。
研究チームは、ドイツ・ハンブルクにある世界最大のX線レーザー施設European XFELと、同じくDESYが運営するPETRA IIIという施設で実験を行った。ice XXIは、水に超高圧をかけると室温でも作れる。ただし、この氷は「準安定」という特殊な状態で、本来ならもっと安定した別の氷に変わるはずだが、しばらくの間そのまま存在し続けられる。
実験を主導したKRISSのGeun Woo Lee氏は「水を猛スピードで圧縮すると、普通ならすでに別のタイプの氷(ice VI)になっているはずの高い圧力でも、液体のまま保てる」と説明する。ice VIは、土星の衛星タイタンや木星の衛星ガニメデといった氷でできた天体の内部に存在すると考えられている。その特殊な構造が、今回のような新しいタイプの氷を生み出す鍵になっているという。
多くの特殊な氷は、極端に高い圧力と低い温度でしか作れない。そこで研究チームは「ダイヤモンドアンビルセル」という装置を使った。これは2つのダイヤモンドで水を挟み込み、ダイヤモンドの硬さを利用して超高圧を作り出す装置だ。実験では最大2ギガパスカル、つまり通常の気圧の約2万倍もの圧力をかけた。この圧力下では、室温でも水が凍って氷になるが、水分子は普通の氷よりもぎゅっと詰まった状態になる。
圧力を変えながら氷がどう変化するかを観察するため、研究チームは独特な方法を使った。まず、わずか10ミリ秒(100分の1秒)で2ギガパスカルまで圧力を上げる。その後、1秒かけてゆっくり圧力を下げていく。この圧力の変化は、電気を加えると伸び縮みする特殊な材料(圧電材料)を使って実現した。この間、European XFELの超高速X線を使い、100万分の1秒ごとに氷の内部を撮影した。まるで超高速カメラで氷ができる瞬間を動画撮影したようなものだ。

PETRA IIIでの追加実験により、ice XXIは他の氷とは異なる特徴的な結晶構造を持つことが判明した。結晶を作る基本的な単位が、予想外に大きかったという。
Lee氏は「European XFELの特別なX線を使うことで、水を1000回以上も高速で圧縮したり元に戻したりしながら、水がどのように結晶化するかを明らかにできた」と話す。DESY HIBEFチームのCornelius Strohm氏は「この特殊な装置では、2つのダイヤモンドの先端で水を挟み、狙った通りの圧力をかけられる」と説明する。
Lee氏によると「水がどんな構造の氷になるかは、どれだけ強く圧縮されたかで決まる」という。DESY HIBEFチームのRachel Husband氏は「今回の発見から、まだ見つかっていない特殊な氷がもっとあるかもしれないことが分かった。これは氷でできた衛星の内部がどうなっているかを知る手がかりになる」と語った。