大阪公立大学大学院工学研究科の檜垣岳史助教、橋本博公教授、情報学研究科の吉岡舜特任助教、神戸大学大学院海事科学研究科の若林伸和教授らの研究グループが、船長の実際の操船データから高度な航路判断を自律的に学習するAI「拡散航路プランナー(DRP)」を開発した。成果は学術誌『Ocean Engineering』に2026年4月21日付でオンライン掲載された。
従来の自動操船システムは、衝突回避や航行効率、交通ルール順守といった要素を数式で表し、それぞれに重みを与えて最適な航路を求める設計が一般的だった。しかし実際の海上交通ルールには人間の判断を前提とした曖昧さが多く、すべてを明示的な数式に落とし込むのは難しかった。今回のAIは、こうした個別の目的を細かく設計する代わりに、熟練者の操船そのものを手本として直接学習する「拡散方策」という手法を採用した。正解となる操船に段階的にノイズを加え、それを取り除く過程を学習することで、唯一の正解ではなく複数の妥当な行動候補を表現しやすいという特徴を持つ。
研究チームは、神戸大学の練習船「深江丸」による181日分の実際の運航データを使ってAIを学習させた。基本的な1対1の航行場面63件では、国際海上衝突予防規則(COLREGs)の第13条から第17条に一貫して従い、安全な距離を保つ緩衝領域を侵さなかった。さらに、多数の船が行き交う瀬戸内海のような複雑な地理的制約を伴う実海域の6件のシナリオでも、十分な安全マージンを保ちながら効率的な航路を生成できることを確認した。同種の既存手法と比較すると、AIS(船舶自動識別装置)とレーダーを統合した実データでオフライン学習している分、より複雑で現実的な状況に対応できたという。
研究チームは、実際の人間の操船データを活用することで、数式だけでは扱いにくかった複雑な判断をAIが学べる可能性を示したとしている。今後、実海域での運航データがさらに集まれば、船員の高齢化や人手不足が課題となっている海運業界における自動運航が現実に近づくとしている。